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状況を冷静に捉えろと、マルトは厳しく問う。自分たちはここへ何をしに来たのか、しっかり思い出せと、ライラを落ち着かせる。こんなところで分散したら、状況は益々不利になり、目的も果たせないだろうと強く声を出す。
それからマルトは、森に逃げ込んでしまったゼノを探すように、暗闇に視線を向けるがその姿はどこにも見えない。
「どこまで行ってしまったんだ」
完全に見失ったと、マルトは森に入るべきか否かを悩む。
「くっ、……ははは……」
「ライラ?」
森の奥にゼノを探すマルトの背後から、突然ライラの笑い声がした。大剣を消し去ったライラは、ゆっくりと一本の木に歩き出す。
木にたどり着くと、ライラはその木を見上げた。
「出てこい」
一言告げると、カサっと木の葉が揺れるのが分かった。
「……もう怒ってない?」
弱々しいゼノの声。てっきり森の奥へ逃げ込んだと思ったゼノは、すぐそばの木の上にいた。マルトでさえ気配を探れなかったゼノを、ライラは瞬時に居場所を見抜く。そのことにマルトは大きく目を開いた。こんなに近くに居たのなら、わかったはずなのに、マルトには分からなかった。
「ああ、変な気負いが完全にすっ飛んだ」
ライラは大きく伸びをすると、さっきまで身体が硬くなるほどの緊張感を背負っていたが、ゼノに付き合ったら、それも全部消えてスッキリしたと笑って見せた。
怒っていないと分かると、ゼノが舞うように地に降りる。
「僕の事、食べない?」
「お前なんか食べたら、確実に腹壊す」
「ぶぅ~、僕だってきっと美味しいもん」
「めちゃめちゃマズイ」
それだけは断言できると、美味しくないと顔に見せたライラに、ゼノがむくれた。
そう、これが普段通りのやり取り。
それを見ていたマルトは、ライラが口にしたように、言いようのない緊張がなくなっていることに気がつく。敵地に来たことと、自分たちの行動が相手に知れていること、見えない敵に感じる恐怖、罠に自ら嵌る……、不安要素が増え、ライラもマルトもずっと気負いしていたが、ゼノがそれを全部崩した。
緊張で硬くなっていた身体が、思いのほか軽くなっていた。
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