さよならはぼくのもの

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 「なんなんだよこれ」  僕はひとりぼっちのコックピットで呟いた。マイクはオフにしたから、聞いてる人はいない。宇宙服にセットされてる時計では、もうそろそろ日付が変わる。でもそれって、地球上のロケット打ち上げ地点の時間でしょ。こんな宇宙空間で、地球の時間なんて意味あんのかな。僕の生きてきた時間がどれくらいだったか知るのには使えるけどね。  半年前、地球めがけてスゴい速さで近づいてる隕石が発見された。大きさや軌道、スピードなんかから計算した結果、地球のど真ん中をぶち抜いちゃうってのが判った。もう世界中の偉い人達が大パニック。滅亡の危機をなんとか回避できないかと、世界最大のスーパーコンピュータに演算させたところ、四ヶ月かかって一個だけ答が出たんだとさ。  それがこれ。  僕みたいな子供が一人、ロケットに乗って宇宙の果てまで隕石を爆破しに行くんだって。  馬鹿げてるだろ? ゲームじゃないんだから。  日付変わったら、僕の誕生日なんだけど、十五歳のバースデープレゼントがロケット型の棺桶ってわけ。  なんで僕が、何億人いるか知んないけど、全人類の命運背負わなきゃなんないんだよ。っていうか嫌だよ。そんなに正義感ないからな。僕を生け贄にして生き延びようとしてるやつらを助けると思う? 思わないんだよ。  家族も親戚も僕をヒーロー扱いして見捨ててくれちゃって。なんで反対してくれなかったんだよ。宇宙服では、滲んだ涙も拭けやしないじゃんか。  僕は人類を救わない。そう決めた。  迫りくる隕石を避けて、決められていた軌道を外れる。ざまあみろ。グッバイ地球。  隕石を横目に過ぎる頃、時計のアラームが鳴った。日付が変わったらしい。アラーム音は『HAPPY BIRTHDAY TO YOU』だ。ふざけやがって。  フルコーラス鳴った後、音声メッセージが流れ始めた。そんな機能があるなんて知らなかったから止め方が分からない。ぼんやりと聞いていた僕は、途中から涙が止まらなくなった。
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