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目が覚めたのは真夜中だった。 これでも寝付きはいい方なので、真夜中に急に目を覚ますということはこれまでなかった。 正面に見える病室の大きめの窓からは、漆黒の夜空が見えるばかりで、ほぼ黒以外の何も見えなかった。 二度寝すればいいだろうと、すぐに思った。 どうせ起きていたって、やることは何も無い。 また枕に顔を埋めて、布団に体重をかけるように寝転がった。 妙に目が冴えていたが、この態勢で横たわっていれば、そのうち、また眠りに落ちるだろうと思った。 しかし何故か、中々寝付けなかった。 仕方なく身体を起こして、不意に窓辺まで歩いた。 窓を開けると、夜風が気持ちよく顔に当たった。 真っ暗な夜空 その下に見える街も、すでに眠りについたように漆黒の闇に包まれていたが、ところどころにイルミネーションの灯が明滅して見えた。 真夜中の暗黒の夜景だが、その静寂が心地良かった。 この静けさの中で、もうすぐ消えていくのだろう。 それで全ては終わりだ。 それでいい。 穏やかに、この静寂の闇の中に消えてしまえばいい。 夜空を見上げた。 ただひたすら一面の暗黒。 こちらも、しんと静まり返っている。 目を閉じた。 同じ真っ暗な暗黒が拡がる。 目を瞑ったまま歩いた。 そして再びベッドの方へ行き、その上に横たわった。 枕に再度顔を埋めた。 このまま暗闇の世界に、静かに消えていきたい そう思った。 徐々にまた、睡魔が襲ってきた… 気がつくと暗闇の中にいた。 手足の自由は利かず、ただ暗黒の世界を突き進んでいく。 辺りは静寂に包まれている。 これが望んでいた、静かなる闇の世界か? これでいい。 このまま闇の中に葬られ、消えてしまえばいい。 それでいい。 それが運命なのだ。 心地良い風が身体をなぶる。 浮遊感に似た感覚が全身を癒す。 このまま暗黒の世界へ行き、消滅してしまえばいい… だが、ふと、目が覚めた。 そこは真夜中の漆黒の空の上だった。 何故?! 今、空を飛んでいるのか?? どうしてそんなことに?! 手足は拘束されたままだった。 どんなにもがいても、手足はがんじがらめに動かなかった。 周りを見回した。 そこにはなんと、傘の大群が浮遊していた! 怪しげな傘の大群がこちらを取り囲んで、漆黒の夜空を浮遊しているのだ。 手足を拘束しているのも、この大量の傘の群れだ。 ということは、やはりこちらも今、空を飛んでいるのか?? 恐々、真下を見下ろした。 そこには、闇に包まれた、あの街の景色が見えた。 すでに都市は眠りについていたが、ところどころにイルミネーションの煌めきが見えた。 そして真下には、高層ビル群がとぐろを巻くように聳え立っているのが見えた。 闇に包まれた、眠っている都市の真上を、訳もわからず飛翔していた。 大量の傘の群れは、こちらを拘束したまま、どんどん高度を上げていく。 これは何だ?! 夢か幻か?? まだ夢を見ているだけなのか?? そう自問したが、こちらの目ははっきりと今、冴え渡っているのが自覚出来る。 どうやら本当に真夜中の漆黒の夜空を、自分は今飛んでいるのだ。 大量の、謎に満ち満ちた傘の群れと共に…
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