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「うん、付き合おっか」
「ハァ?」
紫雨の何の脈絡もない突然の告白に、玲於奈の声が1オクターブ裏返った。
しばらく見つめあい、ニコニコと感情の見えづらい人の好さそうな笑顔を見つめていた玲於奈だが、大きくため息をつき「いや、何言ってんの?」と当然の疑問を吐いた。
「何って、告白。好きだから、付き合ってほしいって」
「なっ」
恥ずかしがる様子もなく、まるでそう言うのが当然だといわんばかりの不思議そうな色の混じった声で紫雨はさらっと述べた。
モテ男というものはみんなこういうものなのか、なんという男だと若干の恐怖を感じながら玲於奈はすぐさま答える。
「恨まれそうで怖いからやだ」
同時に首を大きく横に振る玲於奈に、紫雨はショックを受けることはなく、むしろ楽しそうにその端正な顔に不敵なにんまりとした笑みを広げた。
「断られたら余計に燃える。決めた。俺格好いいから絶対落とせるし卒業までに頑張って落とすわ」
何の自信か。
いや、モテていたからこその自信か。
「嫌だ。絶対嫌だ」
面倒ごとに巻き込まれるだろうことは一目瞭然。
そんなことになるなんて、絶対にお断りだ。
必死に拒否の言葉を吐き、態度でも精いっぱい示している玲於奈の視界に、ふと、零と洋の姿が社の扉の近くにいるのが目に入った。
2人は、おかしそうな、心底楽しそうな、とても機嫌よさそうな笑みをニッコニッコと浮かべていた。
その瞳の中がどこか、見守るような温かみを帯びていて、玲於奈は何か色々察した。
再び紫雨に視線を戻すと「フフ、よろしくね」と語尾にハートマークを添えて、口端をそっともちあげる。
綺麗だが、ゾッとするような恐怖を煽る笑み。
その表情が言葉を出さぬが、有無を言わさぬ声音で言っていた。
絶対に逃がさない
玲於奈は頭を抱える様に片手で額を抑えた。
「私の周りってなんでこんな厄介そうな人ばかり増えるの……」
げんなりとした玲於奈の声音に、紫雨は「フフ、いいひと、でしょ」と学校でよく見かける優し気な王子の笑みを見せる。
そして、目を細め、言った。
「もう誰も、俺たちの恋路を邪魔なんてしないから」
fin
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