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彼女と出会った日のことを今でも鮮明に覚えている。
真夏の7月下旬。
週に一度の市民ホールで行われる僕、成瀬 光(なるせ こう)のクラッシックピアノ演奏会。
市の『クラッシック音楽を身近に感じよう』という試みから成っている演奏会なので、誰でも無料で聴くことが出来る。
世間が夏休みに入り、小さい子を連れた親子連れが増えた観客席はいつもよりも騒がしかった。
演奏が終わり、まばらに拍手がなる。
僕はいつものようにお辞儀をした後、楽譜を片付け グランドピアノの屋根を下ろし、控室がある後方を振り返った。
その時不意に目が合ったのだ。
冷房が入っている館内だとはいえ、真夏の7月。よく日に焼けた小学生やその母親達の中で1人、彼女はそこから切り離されたように真っ白で清らかに見えた。
陶器のような美しい白い肌に華奢な体躯と均整の取れた顔のパーツ。一度見たら絶対に忘れないであろう、深く印象に残る彼女の姿に 僕は息をつくのを忘れたように思う。
彼女は僕と目が合ったことに若干戸惑ったような表情を見せた。そしてすぐに軽く会釈し、隣にいた 彼女とそっくりな、まるで生き写しのような小さな女の子の手を取ってその子に何かを話しかけ席を立った。
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