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『獅琉・スペシャル』、『獅琉・クライマックス』、『獅琉・超絶ハードモード』──。
大型テレビの横のラックには、これまでに獅琉が出たDVDが何本も並んでいる。
禁断愛のドラマ仕立てになっている『背徳の蕾』の裏ジャケットには、相手役のモデルと獅琉が絡み合う姿のカットが幾つも載っていた。このDVDでは獅琉がタチ役をしているけれど、『超絶ハードモード』では屈強な男達に組み伏された獅琉がウケ役になっている。人気のモデルほどタチウケ両方やっているのだそうだ。あの潤歩でさえ。
デビュー当初の頃にはボーイズレーベルにも出ている。学ランよりもブレザーが似合っていて、シャツだけを着た状態で机の上で脚を開く獅琉はエロかった。
クローゼットにはブランド物のアクセサリーやスーツがたくさん。全てファンからのプレゼントらしく、いつかのDVDのオフショットで好きなブランドのことをちょろっと洩らしたら、それ以来今でもたまにプレゼントが届くのだそうだ。
いつからかAVモデルもいわゆる「アイドル売り」をすることが多くなり、ルックスの良いモデルがどんどんと各メーカーに集まっているらしい。男だけでなく女性ファンも取り込むためだ。本来の顧客であるゲイの人達が好むようなマッチョ体系のモデルとはまた別の需要があり、それがうちのメーカーではウケているらしい。
今回結成されたグループ「ブレイズ」も、どちらかといえば男女問わない固定ファンを多く獲得するためらしい。俺以外の四人には元々ファンが付いているから「きっと成功するだろう」と山野さんが言っていた。
ますます、俺がそこに入る理由が分からなくなる。こんなド素人の新人で、見た目だって何が優れているのか謎だし。本当に、引き立て役以外で俺が役立つことなんてあるのだろうか。
「あ。俺のDVD見たいの?」
コンビニから帰ってきた獅琉が俺に言った。
「い、いえ。ちょっと気になって……すみません、勝手に」
「いいよ別に、好きなだけ見ても。昔のは恥ずかしいけどね」
俺が手にしていたのは『獅琉・スペシャル』。二〇一×年と書いてあるから、去年出たものだ。ジャケットに写っているのは、ホストみたいな白いスーツでキメ顔をしている去年の獅琉。本当に芸能人みたいで、これだけ見れば誰もが彼をAVモデルだとは思わないだろう。
「カッコいいなぁ……」
俺のぼやきが聞こえていたらしい。キッチンカウンターにコンビニの袋を乗せながら、獅琉が笑った。
「加工ばりばりでしょ。誰でもカッコよく写るようになってるんだよ」
「素材がいいからですって」
「亜利馬もデビューDVDはそんな風に撮ってもらえると思うよ」
「そうかなぁ……俺がこういう恰好しても滑稽でしかないと思いますけど」
「そういえば、親には連絡したの?」
「しました」
電話で実家に連絡したはしたけど、両親は分かっているようで何だかよく分かっていない様子だった。母ちゃんからは、
「あんたはもう、彼女も出来たことないくせに……そんなことできんのかね」
とか言われたし、父ちゃんからは、
「だ、誰でもいいから女優さんのサインもらってきてくれ!」
と、物凄く興奮した感じで言われた。その後で母ちゃんから頭を叩かれる音がして、俺は「じゃあそういうことで」と静かに通話を切ったのだ。
一応、これで俺も親公認……だと思う。
「何だか凄いけど、良いご両親だね。……ていうか亜利馬は間違いなくそのご両親から生まれた子だっていうのが、凄い分かるよ」
「はあ。お気楽というか、何というか……」
「でもこれで不安は一つ減ったよ。良かったじゃん、亜利馬」
「はい!」
まだまだ始まったばかり──いや、始まるのはこれからだ。
「俺も、少しでも獅琉さんみたいなモデルになれるように……いっぱい頑張りますっ!」
「頼んだよ、亜利馬!」
獅琉が笑って親指を立ててくれた。
「……傑作」
「うわっ、起きてたんですか潤歩さん……!」
ついさっきまで泥のように眠っていたはずの潤歩が、ベッドにうつ伏せたまま俺を上目に見て言う。
「しりゅ~ちゃんみたいになれるように、いっぱい頑張りんちゃい、ありまちゃん」
「む、む……ムカつく……」
べ、と舌を出して馬鹿にした笑みを浮かべる潤歩。
俺はむくれながらDVDをラックに戻し、夕飯の支度を始めた獅琉を手伝おうとキッチンへ行った。
「頑張ってね、亜利馬。ブレイズも亜利馬自身の成長も、楽しみにしてるよ!」
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