潤歩、彼氏モード発動

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 産まれて初めての本番撮影。  産まれて初めてのセックス、に、なるかもしれない撮影。  別にこの歳まで自分の操を大事にしてきたわけじゃないけど、俺の初体験が大勢に見られるというのは何だか複雑な気持ちだ。  しかも、その相手というのが…… 「すっげえ、乗り気じゃねえんだけど。本番中に鼻血噴いたら、マジでお前再起不能にするからな」 「はあ。……俺だって不本意ですし。初めてはどうせなら獅琉さんが良かったし」 「何か言ったか」 「い、いえ。何も言ってないです」  初めて俺を抱く男。  まさかそれが、潤歩になるなんて。 「今回の撮影は潤歩と亜利馬、獅琉と亜利馬で一本ずつだ。獅琉のスケジュールの関係で、先にお前達から撮ることになった」  俺と潤歩の心の内など全く配慮していない素っ気なさで、山野さんが言った。 「シチュエーションは『先輩と後輩』、街中でのデート風景から公園に移動してイチャついた後に、潤歩の自宅というセット部屋で本番の撮影となる」  潤歩が嫌そうに俺を見た。  会議室には俺達三人。何だか重い空気が漂っている。 「……街中で撮影するんですか?」  思わず質問すると、山野さんが腕組みをして頷いた。 「何も手を繋いで歩けとは言わない。普通の友人と歩いている感覚で、自然にやってくれればいい」 「自然に……」  ということはすなわち、これは「演技」。ドラマや映画ではないけれど、俺がずっとやりたかったことだ。 「公園でイチャつくって、どの程度だよ?」  潤歩の質問にも、山野さんが顔色一つ変えずに答える。 「ベンチで会話して、キスをする程度だ。もちろん人目に付かないようにする」  もらった資料にはこう書かれていた。 『恋人同士風になることを意識する。亜利馬の初々しさと初体験であることを強調。潤歩がリードするが、メインは亜利馬ということを意識する。』 「この俺がデビュー作の飾り扱いとはな」  頬杖をついて口を尖らせる潤歩に、山野さんが「違う」と首を振って言った。 「デビュー作だからこそ、お前と獅琉を起用した。人気モデルで釣ってるといえば聞こえは悪いが、それよりもお前達になら任せられると二階堂さんも言っていたぞ」 「マジかよ。そういうこと?」 「そういうことだ」  おっし、と潤歩が拳を握る。  そして「任されたからには売上を保証してやるぜ」と得意げに笑われた。めちゃくちゃ単純な思考の持ち主だ。内容が内容だし、嫌々やられるよりは断然良いけれど。 「それから、この撮影で亜利馬は初めてバック挿入することになる。経験はないと聞いているが、やれそうか?」 「は、はい」 「獅琉にやり方を聞いて、簡単な道具で試しておくといい。本番でいきなりというのは効率的ではないからな」 「は、はい……そうします」 「まあ、教えるのは潤歩でもいいが」 「………」  横目で潤歩を見ると、潤歩もニヤつきながら俺を見ていて目が合った。  ──潤歩と恋人同士設定って、本当に大丈夫なんだろうか。  その時、会議室のドアが小さなノックと共に開かれた。 「おはようございます……あれ?」  顔を覗かせたのは大雅だった。眠そうな目を半開きにさせて、まさに寝起きなのか髪型も少しボサついている。 「……山野さん。俺、今日って画像の撮影じゃなかったでしたっけ」 「大雅は明日の予定だが」 「あー……、間違えた。曜日の感覚、全然ない……。失礼しました」 「おい、待てよ大雅」  出て行こうとする大雅を呼び止めたのは潤歩だ。 「なに?」 「暇ならちょっと俺達に付き合え」  寝ぼけ眼のまま、大雅が「うん……?」と小首を傾げた。
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