1.いざ拘置所

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 ふと思い当たって、あのとき忠岡が発した台詞を記憶から掘り起こす。 『捜査中に急接近する異性って、知らず知らず特別扱いして贔屓(ひいき)目で見るよーになって、犯人候補から外しやすくなるってゆー心理に陥りやすいのよー。これは推理小説(ミステリ)でもお約束よねー』  これは忠岡自身が身をもって味わった教訓だったのか。  自らの体験談だからこそ、含蓄を込めて徳憲に説教できたのだ。 (俺も忠岡さんも、惚れた異性が真犯人だった……これも『偶然の一致(シンクロニシティ)』って奴か?) 「話を整理すると、忠岡さんは二年前――科捜研に採用されたばかりの頃――に、とても懇意にしていた同僚が居たんですね」 「そーよ」  忠岡は苦虫を嚙み潰したように、そっぽを向いた。  開けっ広げに明かすのは一度きり。二度と昔話なんか口にしたくないとばかりに、忠岡は徳憲から目をそらし続ける。 「で、その、何でしたっけ? 干物女の忠岡さんですらぞっこんにせしめた文書鑑定科のイケメン男子――」
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