1.いざ拘置所

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 そんな犯罪者を科捜研に採用してしまった穂村管理官も、さぞ肩身が狭いだろう。 「というわけでだ、徳憲くん。結婚詐欺の手口が酷似していることは理解できたかね?」  その穂村が口を開いた。  徳憲は相槌を打つ。確かに二つの事件はよく似ていた。宮崎県の婚活パーティやら結納金やら。果ては新進気鋭の若社長を騙る手引きまで瓜二つだ。  もっとも、最初の事件では、詐欺師の恒松(つねまつ)(ゆう)が青年実業家の兄と一卵性双生児だったから成り済ますことが出来たものの、手口を真似しただけの悍田愽(かんだひろし)は、似ても似つかない別人の名を(かた)っていたことになる。  そこがオリジナルと模倣の決定的な差異だ。 「徳憲くん、実は類似した結婚詐欺の被害届は、都内だけで五〇件を超えているのだ」 「ほ、本当ですか管理官!」  徳憲は驚きの余り、穂村の肩に飛び付く始末だ。  五〇件……多すぎる。  偶発的に同じ手段を真似した結婚詐欺が、この二年間で連綿と発生し続けているのだ。そんな偶然が重なるだろうか? いや、ない。  惣谷の考案した詐欺事件は、貴重な成功例として水面下で拡散され、テンプレートとして共有された。どう考えても組織的な指導・指南があると見て間違いなかろう。
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