1.いざ拘置所

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 忠岡が字面にこだわるのは、やはり『悲愴』コンビが根幹にあるからだろうか。だとしたら徳憲は、愴助の代わりなのか?  忠岡が妙に懐いて来るのも、新たな拠り所を探していたせいか。徳憲としては、この烈女の世話をするのは御免こうむりたいのだが。 「徳憲くん、忠岡を責めないでやってくれ」  穂村が仲裁に入った。 「管理官……」 「忠岡も二年前のことで未だに心を痛めているのだよ。自分の姉を破滅させた仇敵が文書鑑定科の同僚だった……それ以来、忠岡は君が現れるまで誰にも心を開かず、前にもましてぐーたらで不摂生になり、人を全く信用しない腹黒な干物女に成り果てたのだから」 「わー、管理官まであたしを腹黒とか罵倒する気ー?」 「事実だろうが」 「ぶーぶー」  忠岡はますますへそを曲げた。  肩越しに振り返ってあっかんべーと舌を出すや、またすぐ背を向けて塞ぎ込む。  駄目だ、忠岡は大層おかんむりである。心理学に固執してシンクロニシティ説を曲げようともせず、徳憲を困らせるばかりだ。
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