1.いざ拘置所

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「……惣谷って、そんなにデキる人だったんですか?」 「優秀だったな。何を隠そうこの管理官が自ら、彼を科捜研にヘッドハンティングしたのだから。あれは金の卵だった」 「へぇ! 管理官が人材を引き抜くこともあるんですね」 「うむ。科捜研の研究員は大半が、腕前を買われて他社からスカウトした『特別採用者』なのだ。警察官として入所したわけではない。科学捜査の最先端を走り続ける日本随一の頭脳派集団は、そうでもなければ維持できん」 「なるほど……じゃあ正規の求人募集で採用されたのって」 「近年では忠岡くらいのものだろうな」  穂村は懐かしむように断言した。  科捜研は警察組織でありながら、警察官とは異なる。高い鑑定精度と研究成果を保つために、他業種の有能な研究者や学者を引き抜いているのが実状だ。  採用後は、便宜的に警察学校で座学を習うが、ほんのお触り程度だ。それから科警研でみっちり研修を受けたのち、ようやく科捜研の現場に配属される。 「穂村管理官の肝いりだった特別採用者が犯罪者だと、立つ瀬がありませんね……」 「うむ……ゆえに文書鑑定科は、惣谷が欠けた後も人員を補充できぬまま、二年が経過した……新人を迎えようにも、またぞろ犯罪者かと色眼鏡で見られるのでな……」
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