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いろいろなしがらみのせいで、肩身が狭いらしい。
ご苦労なことである。人の上に立つ管理官だからこそ、一度の失敗がいつまでも尾を引くのだ。誰にでも間違いはあるのに、糾弾され続ける。社会の厳しさを思い知った。
「でしたらなおのこと、穂村管理官は一連の詐欺事件を見逃せませんよね」
徳憲は気分を変えて意気込んだ。
落ち込んでいても仕方がない。穂村も同調する。
「左様。類似した結婚詐欺が断続的に続いている以上、文書鑑定科の威信にかけて全容を暴かなくてはならん。因縁の対決なのだ。我々の沽券に関わる問題だからな……」
文書鑑定科から犯罪者を出してしまった汚名をそそぐために。
惣谷愴助という恥部を払拭し、名誉を挽回するために。
「ねーねー、なら事件の裏側のことを聞きに行ってみよーよ。元凶の男にさ!」
「へ?」
横槍を入れたのは、またもや忠岡だった。
くるりと踵を返し、徳憲と穂村を一瞥している。少しだけ機嫌を直したようだ。それでもまだ正面きって対峙しようとはせず、斜に構えた格好ではあるけれども。
まるで、何かの悪だくみを思い付いたような、意地悪な表情だ。
一言で書くならば――腹黒い。
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