仁宮町神隠し

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「あ、あのさ、本当に神隠しなんてあるのかな?」 「何? 雉谷、アンタまさか怖いの?」 「喧嘩はやめろって。犬川、さっさと行こうぜ」 「……」 仁宮神社に集まった私たちは、早速神隠し解明のために会議を開きました。 臆病な男の子、雉谷風介くん。 元気いっぱい女の子、桃田茜さん。 冒険大好きな男の子、猿野壮介くん。 冷静で知的な女の子、犬川園子さん。 今日の気温は33度。人数も神隠しが起こる条件を、満たしています。あとは、丑三つ時が来るのを待つだけです。 今の時刻は、夜の10時30分。各々が晩御飯を食べてから、各々の部屋に戻り、各々のお母さんに狸寝入りを拝ませてから、こっそり公園にやってきたのです。一人、来るときに見つかった子もいますけど。 「この不思議を私が解き明かして、学会に発表して、ノーベル賞をとってやるんだから!!」 桃田さんが、びしっ、と腕を上げて宣言します。 「何言ってんだよ。これは母ちゃんに教えて、ご褒美をたんまりもらってやるんだ!」 猿野くんはバッティングのフォームをして、勇気を奮い立たせています。 「ぼ、僕は、こんな怖いことに巻き込まれたくないのに……」 雉谷くんはいつまでも臆病なことばかり言っています。 「……」 犬川さんは、なぜか黙っています。 恐ろしい神隠しも、子どもたちにとっては全く恐怖でもなく、むしろ遊園地のアトラクションのような、楽しみな気持ちであふれています。 無邪気な心というのは、時として恐ろしいものです。かくいう私も、心を躍らせているわけですが。 「あ、そういえば、丑三つ時っていつだっけ?」 桃田さんが尋ねました。 「えっと、午前3時。だから、あと4時間半後、だね」 雉谷くんが、右手につけた腕時計を見て答えます。 「さんきゅ。じゃあまだまだ時間があるんだな」 猿野くんが、待ちきれないとばかりにそわそわしています。 「……」 犬川さんは、まだ静かにしています。 あと4時間半後。この町で、世にも不思議な神隠しが起こる。とても不気味な心地です。 「神隠しって言うけどさ、なんで人がいなくなったりするのかな? 誰かに連れ去られているのかな」 桃田さんが尋ねました。 「ひっ! だ、誰かに連れ去られるの!?」 びくっ、と雉谷くんの全身に震えが走ります。 「落ち着けって。今のは喩え話だろ。それよりも、もっとすげえことが起こるんじゃねえか? 異世界への門が開く、とか! 影の世界に招かれる、とか!」 猿野くんは自分の好きな漫画と現実を混濁しているようです。 「うぅっ、もっと怖いよ……」 雉谷くんの震えは未だ止みません。 「……」 桃田さんは、無言を貫きます。 誰も体験したことない神隠し。いえ、体験しても記憶を抜き取られてしまうので、体験したことさえわからない神隠し。 その神隠しが一体どんなものかさえ、私たちには想像もつきません。 「とりあえず、丑三つ時まで起きてればいいんだよね? 途中で寝ないでよね」 桃田さんが特に猿野くんの目を見ながら言います。 「ぼ、僕は怖くて寝られないよ……」 「心配すんなって。三人いるんだ。注意し合えば寝ないって」 「……」 私たちは、丑三つ時まで待つことにしました。
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