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今年の高文連の演劇コンクールも、私は裏方で一人、音響を努めた。
地区によってレベルの高い低いが分かれるが、私の所属する地区は特段高いわけでも、低いわけでもなく、半分は、演劇発表会というところもあった。
今日だって、どの学校の作品も見ていてとても面白い。
加えて、皆がいきいきと演じているから、演劇部が好きなんだということも、それに対する自信も伝わってくる。
同じ部の志帆ちゃんもそう。
学校で習う「山月記」のリメイク版を書き上げるという大役をしながら、監督も努めあげた。
主役が虎になってしまった経緯を語る物語で、主役の役作りが一番大変そうだった。
傲慢と自尊心が膨れ上がった時の李徴(主役)が虎になる瞬間。
主役だった先輩は、高慢な笑みから徐々に表情を崩していって、鬼の面でも被ったかのような形相をした。
私だったら――。
近所の公園、夜も深まる十一時。田舎暮らしの人間は外灯なんて贅沢な物はあまりない。だから、夜目もきくし、何より、外灯より綺麗で優しい光が、町を照らしている。
月明かりの下、「私は……私は……」続きの言葉などいらない。必要ない。
李徴は賢い人。
李徴はツンデレ。
自分の事を自覚していながら、口にするなんて恥ずかしいことは、やっぱりできないんだ。
だから、虎になってしまったこの事実を受け入れるのにも、そう時間はかからなかったんじゃないかな。
学校で習ったときは、なかなか受け入れられなかったみたいだけど。
哀愁、諦め、そして李徴の家族に向けて「ごめんな」。
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