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「私、話す! できる!」
「アハハ! マキちゃんカタコトだよ」
志保ちゃんが笑い泣きするから、私もそれが感染ってしまう。
「ちょっとは根性があるじゃない」寧々ちゃんも事情を知らないとはいえ、放課後練習に来ていないことを咎めるでもなく、何かしていたのだと察して対等に扱ってくれることが嬉しい。
だけど、対等なら志保ちゃんもそうだと思い返す。
私は私の病気のせいで、舞台に立つことさえできなかった。それでもなんとか同じ舞台に、同じ土台で挑むことができるように病院まで付き合ってくれた。
私だけの空間に足を踏み入ったことを知って倒れた時も、筆談してくれた。本来なら私は目も耳も障害はないから、片方だけが筆談で良かったのに志保ちゃんも合わせて筆談してくれたっけ。
部の雰囲気が悪くなって不信感の眼差しが絶えず志保ちゃんや私に向けられていた時より、私が声が出ているだけで周りも志保ちゃんの喜び、寧々ちゃんの是認する言葉につられて場が和む。
「はいはい、声が出るようになったことだし、ゆっくりでいいから読み合わせくらいやってみようか」志保ちゃんの一声で、引き締まる部員たち。寧々ちゃんは変わらず腕組みしたまま、返事をしない。大人しく席に座るので、きっと無言の肯定だ。
私は声が出てすぐだったけど読み合わせをしてみると、せき止められていた川から決壊してだばだば流れるように、それはもうスラスラと読めちゃう。
それが何より嬉しくて、だんだんと声に気持ちが乗ってくる。
私は男役のロミオで、中盤で自分の代わりに喧嘩してしまい、殺されてしまう親友を思い、理性を離してまで自分の恋人の従兄弟を殺す。
ここまでは感情の説明書きが為されていて、その指示通りにやっていた。声が出て嬉しくなってつい気持ちまで乗せてしまったから、本当につい。私たちの「読み合わせ」は謂わば朗読のようなもの。だから、気持ちを乗せていたら、注目を浴びてしまうことは当然だ。
そして、あれ、と思いながらも読んでいく。台本は私も寧々ちゃんたちと同じタイミングで渡されたから、結末を知らない。だから、指示は合ったほうがいい。
やっぱり、途中からの指示はゼロになった。セリフの羅列だ。どういう行動を取るのかさえも書かれていない。
「読み合わせ」を進めていく中で、皆も台本に違和感を感じ始めた。それでも志保ちゃんは止めないし、誰も止めない。
恋人の身内だと知りながら殺しても、行き場のない怒りを感じるロミオ――だと思いたいけど。
この作品の「ロミオ」は何となく狂気を含んだ危うさが窺える。恋人が好きで好きで、誰にも邪魔されたくない。それなのに、両家のしがらみに雁字搦めにされている現状では、恋人と一緒に暮らすことさえ叶わない。
だから、喧嘩を肩代わりして死んでしまった親友の仇と称して仇討ちをすれば、必然的に両家は長年冷戦状態にあったのを破られることになり、互いを無視できない。そうなれば、恋人と駆け落ちができる口実でもできるチャンスだと思ったのではないか。
ロミオの話し口調がそう言っている気がした。
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