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「なぁ?」
「あ?」
「今日……泊まってくやろ?」
上目遣いに告げてくるその声は真剣そのものだ。こういうことを言われないと思っていたというのは全くの嘘である。こんな特別な日に、いい子ぶって自宅に帰る選択肢など、誰が選ぶものか。しかし、あえてお決まりパターンの質問を一つ。
「……いいのかよ? 先公が生徒を自宅に泊めて」
「秋月は俺の恋人やから……特別なん」
短いその言葉に、素直に喜びを感じる。彼の唯一であると──そうであれることが、純粋に嬉しいのだ。
「アンタ──……ほんと、オレには甘いな」
クスリ、と漏れ出る小さな笑い声。それにつられるようにして、また倭斗がふわりとした笑顔を浮かべた。
「これからずっと、よろしゅうな?」
「おぅ……任せとけ」
どちらからともなく顔を寄せ合い、口づけを交わす。
そうしてまた、笑い合う。
ずっと独りで生きていくのだと、そう思っていた春のはじめ。
訪れた新緑眩しい五月──この人の唯一になりたいと願ったことで、すべてが変わった。
これからなにがあろうと手放すことはない──それほどまでに貴方に焦がれているのだから。
「秋月、嬉しそう。なんかええことあったん?」
なにか特別な空気を感じ取ったのか、倭斗が楽しげに尋ねてくる。少し考えて迷った素振りを見せたあと、彼の蟀谷に唇を寄せる。
「初めて好きになった奴が……アンタで良かった」
そんな風に囁いて彼の顎を掬い、もう一度その柔らかな唇にそっと自分の唇を重ね合わせた。
【Step Up~君との恋のはじめかた 朔倭編~_Fin】
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