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そのかわり、声がした。
「バカなくせに。成績なんてせいぜい中の下のくせに。タツキ高校? だっけ。名門目指してるなんて、あったまおっかしー」
「ウッシー、いいじゃん。アタシは楽しみにしてるよ~」
澤見は一呼吸置いて、言った。
「アンタが落ちて、ガッカリしてるとこ、早く見たーい」
私は歯噛みした。何も返さず、階段を降り二階の図書室を目指した。
図書室には見慣れたメンツが席に着き、もくもくと勉学に励んでいた。
私も彼らに習って机に向かう。
刻一刻と時間が過ぎる。バカの最後の悪あがきをする。学んでいるのか、作業をしているのかわからない。とにかく、参考書を片手にペンを走らせる。
私は決して好きで竜樹高校を受験するわけではない。そうしなければ、親が怒るからだ。
両親はとにかく体面を気にする人間だ。
学力、品の良さ、地位。それを示せるような理想的な人になることを求めている。
年の離れた兄は、その意向に沿い、敷かれたレールを見事華麗に走っている。学生時代は学業成績一位を獲得し、中高大と首席として君臨した。さらにスポーツも万能で、入ったクラブでは常に選抜メンバーだった。社会人になった今は、大手企業の研究職に就いている。末廣家では常に優秀であり、間違えを犯してはいけないことになっている。
静まり返った図書室に、突然、アラーム音が響く。
アラームはそれぞれの生徒のスマホから、そして校内のスピーカーから流れる。
多少の時差があるとはいえ、同じ音が各所から鳴る様は異様だ。
『平町付近に魔獣の反応あり。平町付近に魔獣の反応あり。当該地域に住んでいる生徒は、二階、多目的ホールに集まってください。その他の地域の生徒は、当該地域周辺を避けてください。繰り返します――』
魔獣。
数百年前、人間の行き過ぎた開発により、開いてしまった異空間から現れる、いわゆるモンスターだ。魔獣と共生を余儀なくされた人類は、魔獣対策を念入りに組み、その中で生活している。先ほどのアラームもその一つだ。地域に張り巡らせた特殊な電波で魔獣の発生を感知し、魔獣遭遇を回避する。
魔獣は人に危害を加えなければ何ともないのだが、そのような穏健な獣ばかりではない。時に駆除の対象となる。魔獣を倒すことができるのは魔獣だけだ。飼いならされた魔獣か、昔に人間が契約した魔獣の一種、ドラゴンを用いて倒している。
再びアラームが鳴る。
『楓町付近に魔獣の反応あり――』
似たような内容が再度放送される。
別の地域で魔獣が現れたらしい。日の暮れていない時間にこのように放送が重なるとは、珍しい。
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