第一話:席の主はいずこ

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「ここ、かぁ……」  昼休み──校内案内図を見て位置を確認したのち、保健室へと向かった。  中庭から廊下に差し込む陽の光──シンと静まり返って冷えた空気が流れる。【保健室】と書かれたプレートと引手を交互に見つめ、意を決して扉をノックした。 「失礼しまぁす……」  そろりそろりと戸を引いて中に入ろうと一歩踏み出した瞬間、背後にとてつもない気配を感じて振り返る。 「…………邪魔」 「──……ッ、」  片手に炭酸水のペットボトル、もう片方の手には白いビニール袋を提げた、自分とほぼ変わらないくらいの長身の男──切れ長の眼がじとりと自分を見つめてくる。 「おー? なんや珍しいなぁ、貴重な昼休みにこないなとこ訪ねてくるやなんて」  こちらに気づいたのは〝彼〟の声があったからだろう。柔和な笑みを浮かべた西訛りの男が、座っていた事務椅子から立ち上がり、こちらを向いた。 「用があるならそないなとこ突っ立ってないでこっち入ってき。……あきづきぃ、お前もそない睨まんと。〝志賀〟が怖がっとるやない」 「……別に睨んでねぇ。もともとこういう顔なんだよ」  不貞腐れたような声で青年が告げるのを、西訛りの男がへらりと笑ってあしらう。どうにか口を挟まないと自分の疑問はあっさり流されてしまいそうで、思わず口を開いた。
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