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第二話:秋月朔夜
転校初日に彼らとの接触に成功して数日。今日も今日とて保健室を訪れる。もちろん、二人に会うためだ。
「こんにちはー」
昼休み──保健室の戸を開けるとそこには見慣れた光景が広がっている。
この部屋の管理者である四楓院倭斗は、いつものように事務椅子に座り机に向かって作業している最中だ。どうやら今日はパソコンで保健だよりを作っているらしい。
「おー、志賀。なんや、毎日熱心やなぁ。そんなに秋月が気に入ったん?」
戸を閉めて室内に入るなり倭斗が茶々をいれてくる。人懐こそうな笑顔を浮かべる彼の傍に寄り、事務机の上に置かれたボールペンを手にとった。そのままくるくると器用にペン回しをしてみせる。
「ははっ、嫌だなぁ。興味対象は秋月君だけじゃないですよ。四楓院先生にもちゃんと興味あるんですよ? オレ」
「嘘つけー、俺んことはついでやろ? ここ来たら秋月に構いっぱなしのくせに」
「あっれー? バレてました?」
「調子えぇやっちゃなぁ」
ペンを回しつつ小首を傾げるようにしてウインク一つ。そんな自分を見て倭斗が小さく笑いを漏らす。どうやら彼にはおべっかは通じないらしい。今度は自分達がいる位置より後ろに視線を投げる。
「あれ? 秋月、今日はお弁当なの? すごく美味しそう」
突然声をかけられたことと、その声が至近距離から聞こえたことに驚いたのか、目の前の秋月朔夜の両肩が、僅かに揺れた。
「もーらい」──そんな風に言って机に広げられた弁当箱の中から黄色い塊をひとつつまみあげる。口に放り込んで咀嚼すると品の良い出汁の風味が口の中いっぱいに広がる。中に巻かれた明太子がぷちぷちと弾け、それを囲う卵はほろほろとした柔らかい食感──こんなに美味いだし巻き卵を食べるのは久しぶりだ。
「──……ッ!! テメェ!!!」
「ッ、おっと?」
けたたましく椅子がひっくり返る音が保健室内に響いたのと、朔夜が自分の胸倉を掴んできたのはほぼ同時だった。いつも以上に鋭い眼光が、視線の先に覗く。
「飯時に騒ぐなー。秋月ー、志賀が驚いてるやないの。その辺にしときよー?」
「だっ……コイツが悪いだろ!? どう見ても!」
こちらに背を向けたままの倭斗が、気配だけでなにか起きたことを察して窘めるような言葉をかけてくるのに対し、これでもかと言わんばかりに抗議の声をあげる。小さく溜息をつく音が聞こえる。椅子を半回転させ、振り返った倭斗は真っ直ぐに朔夜を見た。
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