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第一話:席の主はいずこ
「こんな中途半端な時期に転校なんて、大変だっただろう?」
「いえ、そんなことは。学期末試験前にお手数おかけします」
教室に案内してくれるという担任の後ろについて歩きながら志賀龍之介は、振り返った担任に向かってふわりと笑ってみせた。
「まぁうちは男子校だしクラスの連中も気のいい子ばかりだから、すぐ馴染めると思うよ。ただ、いまちょっと座席の用意がなくて……〝一応〟空きがあるからしばらくはそこに座っていてくれるかい?」
「〝一応〟……ですか? もしかして休学している生徒がいるとか?」
「うぅーん……休学ではないんだ。いわゆる〝保健室登校〟ってやつで。二学期からは普通にクラス登校してくれるといいんだけど……」
「へぇ……?」
「さぁ、ここが教室だよ」──そんな言葉と共に開かれた教室のドア。担任の登場に慌てて自分の座席に戻ったり姿勢を整えたりする生徒達──どこにでもある、学校の風景。
「じゃあ、自己紹介してくれるかい?」
「志賀龍之介です。父の仕事の都合でこっちの地区に越してきました。割りと背が大きいので、もし黒板見えなかったら言ってください。今日からよろしく」
にこりと笑顔を浮かべると、クラス全員が拍手で迎えてくれる。
ただ一つの──空席を除いて。
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