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四時限目の授業を終え、クラス内が喧騒に包まれる。
購買へ走って行く者、買ってきた昼食を机の上に並べる者、仲間内なのか隣のクラスの人間も教室を出入りしている。いつもと同じようにスクールバッグの中からサーモボトルを取り出してハタと気がついた。そういえば昨夜月冴からSNSアプリにメッセージが届いていた。今日は一緒に学食に行くのだと。朝のドタバタですっかり忘れていた。
「尚斗!」
席替えをして二列ほど離れた席を離れ、月冴が目の前にやってきた。腕にはしっかりと弁当箱の入った巾着を握りしめている。最初に「学食へ行こう」と声をかけてきた時とは違い、今回は幾分か緊張の取れた面持ちであった。
「学食、付き合ってもらうからな?」
「はいはい、わかってますよ」
〝今しがたまで忘れていた〟という事実は敢えて伏せ、取り出したサーモボトルをもう一度スクールバッグに押し込むと席を立つ。
「……今日は友達と一緒じゃなくていいのか?」
教室を出ようとしたところで月冴の背に一言疑問を投げかける。尚斗とは違い、月冴は友人が多い。昨日もその前も学食にはクラスメイトと訪れていたはずだ。当然、今日も誰かしらいるのだと思っていたのだが。
「すっかり気遣われちゃってさ……〝彼氏とごゆっくり〟だって。そんなわけで今日は二人」
「へぇ? 男子校って〝こういうネタ〟で騒ぐもんじゃねぇのか。いまどきの学生は殊勝なんだな」
「〝姫乃井と曇狼だったら全然イケる〟ってさー……いったいなにが〝イケる〟んだか」
男子の性事情における、いわゆるズリネタとしてだろう。
自分はともかくとして、月冴ほどの容姿ならば雑誌に載っている下手なグラビアアイドルより夜のオカズになるのは頷ける。そんなことを口にしたが最後、機嫌を損ねるどころの騒ぎではないから、尚斗は黙ったまま作り笑いで誤魔化した。
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