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プロローグ
『これからこの学び舎で多くを学び、また、多くの絆を育み、高校生活を有意義なものにしていきます。これからお世話になる先生方、先輩方、私たち新入生を温かい目で見守り、ご指導くださいますよう、よろしくお願いいたします。 新入生代表 喜多里彩斗』
桜舞う四月──うららかな日差しの差し込む渡り廊下は、まるで温かな絨毯を敷いたようにポカポカとしている。
新生活の始まり──期待を胸に参列した入学式。そんな風に素直に思えていたのは、おそらく、小学生くらいまでの話だろう。この歳になると、式典そのものの存在を疎ましく感じてしまう。
時間を拘束され、無駄に長い学校長の話を聞かされ、テンプレのような新入生代表の挨拶を聞かされるにも関わらず、居眠りはおろか中座も許されない。読書のために何時間も図書館やカフェテリアの椅子に座っているのはまったく苦ではないのに、興味のないものに関してはとことん堪え性がないのが、自分の悪い癖である。姫乃井尚斗はひとり渡り廊下を歩きながら「くぁ」と、小さな欠伸をひとつ噛み殺した。
入学式のあとはクラス分け発表にあった自分のクラスへ赴き、入学オリエンテーションを受けなければならない。今日一日の流れであったり、今後の予定を説明された上で、出席番号順に自己紹介という面倒くさいことをやらされるであろうことは、わかりきっている。こういう式典続きのルーチンなど、学年が上がったところでどこも同じだ。中学の初っ端にやったことは、高校の初っ端でもやる羽目になるのである。
尚斗は人付き合いが苦手だ。いや、苦手なんて可愛いところでには留まらない。もはや〝面倒くさい〟の範疇である。
できることなら、他人と関わりを持たず、クラスの端っこで、それこそ道端に転がる小石の如く誰にも気にされずに、静かに読書をして過ごしたい──そんなことを常に考えている。
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