第七話:お節介な二人組 ~朔と龍~

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「四楓院先生ー、貼り替えてきましたよ、校内のポスター」  そんな台詞と共に扉を開ける青年。すると、中から特徴的な声音が返ってきた。 「おー、お疲れさん。すまんかったなぁ、面倒な仕事頼んでもうて」  奥の薬品棚をカラカラと閉め、こちらに向き直った白衣の男がニコリと微笑んだ。 「養護教諭って……男……? 優しくて手際が良くて料理上手……?」 「あれ? 知らなかった? うちの学校、養護の先生が男性なんだ。珍しいよね」 「四楓院倭斗先生だよ」──そう紹介して青年がにこやかな笑みを浮かべた。すかさず、後ろにいたもうひとりの青年が口を開いた。 「コイツ怪我してんだ。手当してやってくれ」  突然、とん、と背中を押され倭斗の前によろめきでるような形になると、「おっと」──そんな風に言いながらこちらの身体を受け止めてくれる。喫煙者なのだろうか──僅かに香る煙草の匂いが鼻腔を掠めた。 「あきづきー、怪我人や言うてるわりに扱いが雑やで?」 「左頬、あと口ん中」  特に言葉を返すことはせず、手にしていたポスターを一枚ずつ折り畳みながら端的に告げる。一言で表すなら〝無愛想〟──けれども、目上で教員であるはずの彼も特出して咎め立てしない。まるで彼の態度如いては扱い方をわかっているかのような反応に、彼らとの付き合いの深さを感じた。倭斗がこちらの頬に軽く触れて様子を伺う。すると、僅かに顔を顰めた。 「あー、腫れてんなぁ。志賀、冷凍庫から氷出して氷嚢作って。ちょおっとここ座って待っとき」  キャスター付きの丸イスを転がしてきて座るよう促してくる。ここまでされたら断る術もないと、大人しくそこへ腰掛けた。てっきり女の養護教諭だとばかり思っていたから、同性ということにホッとした。 「三年生が三人がかりで寄ってたかって、ですよ。ヒドくないですか?」 「殴ったヤツはひとりだろ」  指示通り、冷凍庫から氷を取り出し氷嚢に割り入れながら口を尖らす志賀に、ポスターを畳み終え今度はA4のプリントを折り畳んでいる秋月が付け加えるように答えた。事実を歪曲して伝えることが性に合わないのだろう。 「でも下級生に手を上げるなんてサイテー」  秋月の言葉に〝納得できない〟というニュアンスで志賀が言葉を返す。出来上がった氷嚢をこちらに手渡してくるのを渋々受け取って患部に当てると、ひやりとした感覚が熱を帯びた頬に馴染んでいく。 「三年といえば灰色の受験生やし、神経質になるヤツは神経質になるから……にしても、三人で一人相手ってのは穏やかやないなぁ」  消毒液を染み込ませたコットン球をピンセットで摘んだ状態でこちらに近づいてきた倭斗が、そんなことを言いながら溜息をついた。切れて血の滲む口端にそれを少しずつ当てながら治療を施していく。消毒液が傷口に滲み、ヒリヒリとした痛みに顔を顰めた。 「お前、アイツらと知り合いか?」  自分の仕事を終えたのか、小さめの絆創膏を持った秋月が傍らに立ち、こちらを見下ろした。 「知り合い……っていうか」  射るような視線──突発的な質問ではなく、敢えてとも捉えられる質問にどくりと心音が跳ね上がった。
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