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第一話:ターゲット
「よし、これで全員揃ったかな? 一年C組にようこそ、新入生諸君。これから入学オリエンテーションを始めます。まずは、起立」
溌剌とした声で教壇に立った担任と思しき男性教員が告げる。クラスには椅子を引く音が響き、全員の視線が教員へと向けられた。
「礼! 着席」
変わらず溌剌とした声が響き、一同に礼をして言われた通りに着席すると、担任が生徒名簿を開いた状態でクラス全体を見渡した。
「そんじゃあ出席取るから、元気に返事するように。まずは相原」
生徒ひとりひとりの顔を見ながら担任がよく通る声で苗字を読み上げていく。
覚える気のないクラスメートの氏名など、尚斗にとってはどうでもいいことだった。この入学オリエンテーションさえ乗り切れば、今日は下校の流れになるはずだ。下手に居残って連絡先交換などに巻き込まれては堪らない。スクールバッグは机の横にかけず、あえて机の上に置いたままにした。
「えー、次は……喜多里! 新入生代表の挨拶、お疲れさんだったな。すごくキマってたぞ?」
「ありがとうございます」
「お前、たしか双子の弟がいたんだよな? 入学早々クラスが離れて残念だったなぁ」
「いえ、普段から家で顔を合わせていますし、同じ名字がクラスに二人もいたら、先生方も困るでしょう? 大丈夫ですよ」
「そうか? まぁ高校は一年ごとにクラス替えがあるから、来年に期待だな! 次はぁ……」
世間話を終えた担任は引き続き生徒の苗字を呼ぶ作業に戻る。
新入生代表の挨拶──その内容は半分も頭に残っていない。これからの学生生活に夢や希望や、それこそ抱負などをさぞかしご立派に語っていたことだろうが、そんなものを静聴するより、尚斗にとっては一冊でも多くの小説を読むことの方が遥かに有意義に感じられた。もしくは……。
(久々に……〝ヤリてぇ〟かも……)
最後に人の体温を感じたのはいつだろう──三日前? 一週間前? それとも……もっと前であったか。
(セックスしたい……)
年頃なら欲求の範囲内であると言える。が、尚斗の場合はそれらとはまったくかけ離れたところからきている、謂わば半依存のような状態であった。
幼い頃に母親が病気で他界し、その後父親が再婚。その時の再婚相手に嫌というほど虐げられ、母親の生家である祖父母の家に養子という形で引き取られた。
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