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「じゃあ今日の授業はここまで! 飯食う前にちゃんと着替えて手を洗うんだぞー。解散!」
授業終了のチャイムが鳴り響いている。クラスメイト達が更衣室へ移動を始める中、あとに続こうとする月冴の背中に声をかけた。
「曇狼」
「ん?」
振り返ったわりに意外そうな顔をした月冴が、きちんと正面を向いてこちらに向き合った。それもそのはずだ──半月経って月冴とまともに会話をするのはこれが初めてになる。
ファーストインプレッションのおかげか日本人離れした見た目のおかげか、月冴は翌日から、動物園で一番の人気者のパンダのようにクラスメイトに囲まれる日々を送っていた。月冴の周りには絶えず人がおり、昼食も学食に弁当持参で誰かしらと一緒だった。こんな時でなければ、彼を捕まえることなどできない。
「つかさー、なにしてんだよー? 学食の席なくなんぞー!?」
「ごめーん、先行っててー」
なかなか来ないことを心配してかクラスメイトの一人が体育館の外から大声で呼びかけてくる。それに返事をしてから「ごめんね」と小さく舌を出して笑ってみせた。
「行かなくていいのか?」
「うん、あとで顔出すからいいよ。えっと……姫乃井、だよね? ちゃんと喋るの初めてでなんか緊張する」
体操服の裾を掴んでもじもじとしながらそんなことを言うので、僅かに溜息が漏れた。社交性の高い奴が緊張などという言葉を口にするなんて、普段から人付き合いを苦手としている尚斗からしてみればそちらの方が意外すぎる。
「俺になにか用事?」
連れ立って更衣室にやってくると、中に人はおらずシンと静まり返っていた。昼休みの購買と学食は食料と席の争奪戦で凄いらしいと聞いた事がある。昼休みはもっぱら教室で静かに持参したホットコーヒーを飲む習慣の尚斗にはまったく関係のない話だが。
畳んだ着替えをロッカーの中から取り出し、Tシャツを拡げて扉に引っ掛けると、月冴は早々に体操服の上を脱ぎ始めた。捲り上がったところから徐々に見えはじめる白い肌。欲求が高まっていく。
「ちょっと……付き合ってくれねぇか?」
「へっ? 付き合うって……な、……」
背後から忍び寄り、月冴のことを囲うようにして退路を塞ぐ。スチール製のロッカーに拳をつけば、特有の金属音が、室内に響き渡った。後ろから覆う影に、月冴の肩がびくりと揺れる。
「ひめ……のい……?」
「アンタと〝ヤりたい〟ってこと」
恐る恐る振り返った月冴の瞳が──その一言でハッキリと見開かれた。反射的に上半身を引いた辺りを見ると、本能的な防衛反応が働いたということだろうか。
「ヤる……ってなにを……?」
「この状況でそれ聞くか? 鈍すぎだろ」
片方だけ腕が抜けて中途半端に引っかかった体操服を避け、白い胸板に指先を這わせる。親指の腹で淡く色づく乳輪から乳嘴をゆっくりと撫でながらもう片方の手で細腰を自分の方へ引き寄せ、いま自分が弄り回している胸元へと顔を埋めた。
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