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「宍戸くんへ
さっきの手紙のご用事なあに?
白柳」
次の日の放課後のこと。僕の机の上に、綺麗に折りたたまれたメモが「宍戸くんへ。白柳」と書かれて置かれていた。
――告白の返事、なんて来るだろう……
と、恐る恐る、半々の期待を抱きながら、僕はメモを開いた。そして、その内容に愕然と固まってしまった。
♪黒やぎさんからお手紙着いた
白やぎさんたら読まずに食べた
仕方がないのでお手紙書いた
さっきの手紙のご用事なあに
(まどみちお「やぎさんゆうびん」より)
僕の頭の中に、そんな歌詞が無限に流れていく。
――なにこれ……僕、からかわれてんの……?
☆
今朝。白柳さんが合唱部の朝練で早くももらったと思われる誕生日プレゼントの小袋たちを腕に抱えながら自席にふんわり、と着くなり、僕は、
「白柳さん」
と声をかけた。白柳さんは、ん? と不思議そうな顔で僕のことを見つめた。
「おはよう!」
白柳さんは、小鳥がさえずるような明るい声色で、はきはきと挨拶してくれる。
「おはよう……えっと、今日、誕生日だよね? おめでとう。これ、良かったら食べて」
僕は、緊張で棒読みのようにそう言いながら、昨日用意した、茶色の紙袋を両手で差し出した。白柳さんは、目をまんまるくして、
「え、いいのー!? ありがとう!」
と言ってにっこりした。昨日寝るときに想像していた白柳さんの笑顔も可愛かったが、現実の白柳さんの笑顔は妄想のを上回るほどに、あたたかい微笑みで、僕は思わず照れながら、そそくさとその場を立ち去ってしまった。
僕は、教室の一番窓側の席から、教室中央に位置する白柳さんの様子を時々窺う。
あるときの10分休み、白柳さんが、かばんから僕のプレゼントの茶色の紙袋を取り出した。彼女は袋の中から、ミニタルトを取ると、パクリ、と口に入れ、柔らかそうな唇を閉じた。もぐもぐと咀嚼をしながら目をパアア! と輝かせる瞬間の白柳さんを僕は見逃さなかった。
――良かった。喜んでもらえて……
僕は心底ホッとした。
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