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それで返ってきた白柳さんの返事がこれだ。
「宍戸くんへ
さっきの手紙のご用事なあに?
白柳」
まさに、「白柳さんたら(手紙)読まずに(お菓子だけ)食べた」だ。
頭の中でリピートされる「やぎさんゆうびん」に、僕は頭を抱えた。
――からかわれている、振られたんだ、と思った僕は、その「さっきの手紙のご用事なあに?」に、返事をしなかった。
唯一の接点ともいうべき、同じ場所の掃除のときも、
「宍戸くーん、タルトめっちゃ美味しかったよ! すごいねぇ。ありがとう!」
と、ほうきで床を掃きながら、白柳さんはにこにことしていた。
その純粋そうな顔から察するに、本当に彼女は、僕のあの手紙を読んでいなかったらしい。
「ほんと? 良かった」
僕は少しだけ笑ってそう返した。
僕が書いた手紙に関しても、彼女が書いた手紙に関しても、一切何も触れず、言葉にせず。
白柳さんも、何か言いたげな顔を隠せないまま、ちりとりでゴミを集める僕のことをじっと見つめていた。
「おっけー、まあ、今日もこんなとこでいいよね、じゃ、教室戻るかー」
との班長の言葉で、僕たちは、掃除の担当場所の渡り廊下から、教室へと帰った。
教室に入るとき、環境委員の男子が透明なゴミ袋をサンタのように肩に載せてごみ捨て場に行くのとすれ違った。僕は、その中に、茶色の紙袋があるのを見た。
僕の手紙は、白柳さんに読まれないまま、あの中に捨てられてしまったのか……
――これが、高校一年のときの出来事である。
一年生のときは、このときより他に、僕が白柳さんに、手紙の話題を持ち出すことはなかった。
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