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時は過ぎ去り、2月14日。バレンタインの日。今年も僕にとっては無縁の一日だったなあ、と思っていた帰りのホームルームの後で、僕は、
「宍戸ー」
と声をかけられた。相手はダボダボの黒色セーターを萌え袖にし、校則では禁止されている黒タイツを履いた鮫島さんである。
「え、何?」
「メイが呼んでるよ」
その言葉に、僕は、心臓が飛び出そうになった。
「ええ!!」
僕はそう叫んで、教室の扉を見た。そこには、ぐるぐると白くてほわほわなスヌードを巻いて紺のダッフルコートを着込んだ白柳さんが立っていた。
僕は、心臓をバクバクとさせてゆっくり歩きながら、廊下に出る。
「お疲れ様……」
白柳さんは、冬でもツヤツヤとした綺麗な唇をそっと動かしてそう言った。
「お疲れ様……」
僕も同じ挨拶を繰り返す。
「えっと、これは……だいぶ前のことだけど、図書館で私が泣いたときに、一緒に居てくれたときのお礼」
白柳さんは、そう言うと、薄ピンク色の紙袋を僕に差し出した。受け取って中を見ると、茶色いシックな小箱と、水色の地に目玉焼きとパンの絵が描かれた封筒が入っていた。
僕が、
「え! ありがとう!」
と言うと、白柳さんは、ほっとしたように頬を薔薇色に染めてにっこりした。
「それじゃあ、またね!」
彼女はそう言って、友達の輪の中へと戻っていった。
白柳さんからの手紙はすぐに見たかったけれど、人目もあるし、帰りの電車で一人になるまでは読まずにいた。
僕の家の最寄り駅へ向かう電車に乗り換えて席に着いた際に、僕はゆっくりと、白柳さんからの手紙を開いた。
「宍戸くんへ
先日は、図書館で私が泣いたとき、一緒に居てくれてありがとう。
泣いた理由は言えなくて……ごめんね。
宍戸くんのことはとても信頼しています。でもあのとき泣いた理由を言うには、時間が必要です。ごめんね。
でも、とにかく、あのとき宍戸くんと一緒に居られて、あたたかい気持ちになりました。
これはお礼です。
これからもよろしくね。
白柳メイ」
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