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突然どこかどんよりとした僕に渋谷は気づかなかった。
「この手袋、マジあったかいわ、さんきゅ!そろそろいい時間だしさ、下のイルミネーション行こうぜw」
下、というのはモールの前に広がる大通りのことだ。
確かに、ここからでも見えるけれど、上から見るために作られたわけではないイルミネーションは、あまり綺麗ではない。
ああ、光っているな。という感じだ。
きっと綺麗なんだろうな、と思わせる雰囲気を醸し出して、僕らを煌びやかな夜に誘う。
「……そうだね」
正直気分は乗らない。
でも行きたいと騒ぐ気持ちも心の中に確かにあって。
ぐるぐる巻きで僕らを結んでいたマフラーはそっとまた僕に巻き直された。
二倍になったはずなのに、どうしてこんなに寒く感じるんだろうな。
でも僕は渋谷の後についていって階段を降りはじめた。
外に出ると、光の洪水が楽しそうな渋谷と少し憂鬱な僕を迎える。
綺麗だ。
純粋に綺麗。
でもなんでだろうな。
綺麗なものを見れば見るほど、なんだか辛いのはなんでだ。
僕の心が綺麗じゃないから?
「綺麗だね、……え?」
ごめん。
また、余計な心配をかけた。
心配してくれるなら。
「あ……ごめんっ。綺麗過ぎて……っ」
ごめん、でも嘘つかせて。
ごめん、情緒不安定すぎて、自分でもちょっともう嫌になってきた。
ごめんなさい、渋谷。
ありがとう。
背中をさすってくれるお前の手はあったかくて優しい。
でも、なにも知らない。
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