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さああーーと真っ赤に熟していく渋谷の頬と耳を眺める。
ほんとは、わからないふりして頭に浮かぶ都合のいい解釈を見て見ぬふりをしてた。
渋谷も好きでいてくれてたらって思ってた。
でも、無理だろう、そんなわけないって思ってた。
だって、僕にとって男を愛することは当たり前でも、ゲイじゃないこいつにとっては違うんだから。
「じゃあさ、」
いつもより低く渋谷が言った。
「俺と、付き合ってください」
渋谷が右手を差し出す。
何かのドラマみたい、と思う。
返事をするヒロインは今の僕みたいに心臓が破裂しそうなんだろうか。
小鳥みたいに早く心臓が胸の中で打つのを感じてるんだろうか。
足元が今崩れ落ちても笑えるほど幸せなんだろうか。
恥ずかしいくらい情けないようなどうしようもない赤く締まりのない顔で、手を取るのは、僕だけなんだろうか。
「はい」
このたった二文字にこんなに緊張するとは。
ここまで、割と神妙にやっていた渋谷が噴き出した。
「あっははは、なんで家の前でこんなんやってんだろwwwwww」
「それなwww」
僕もつられて笑いだす。
「ね、デートしよ、ほんとに」
そのセリフはどっちが言ったんだっけね。
僕たちは、デートした。
初めて。
本当に。
この時味わった幸せは、きっと一生忘れない。
忘れたくない。
……デートの中身は、内緒。
僕と渋谷だけのものにしたい。
ほんとは、書くべきなんだろうけど、これだけは。
近所の公園でのセンス皆無なデートは、一円もかけずとも幸せの塊みたいなものだった。
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