下校デート

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渋谷の電波越しの呼吸音だけが耳に響く。 電波を越してない僕の心臓の音のほうがよほど大きいのはなんでだろう。 本当に聞こえてない? 心臓が勝手に口から出てきてどこかに行ってしまいそう。 どっかにいっちゃったらむしろ安心なのかしらん。 「あー言わなきゃだめ?中野も言うなら言う、とかどう?」 いや言わなきゃだめでしょうよ。 それとも言えないんかいっ!! まさかそれはないでしょうよ。 「……渋谷が先なら」 「あ、それはいいんだ?恥ずかしがってあんま言ってくれない感じがしてたのに」 「さすがに、だって……恋人、だし?」 「確かにw」 「わかった言うよ、準備は良い?」 くすくすとからかうようにささやいてくる。 こういうテクニックってイケメンだと生まれながらに持ってたりするのか? そんな、よく少女マンガやBLで見かけるテクニックに溶かされそう。 「うーん、全部好きなんだけど、なんていえばいいのかな……。かわいいところ、かなぁ。素直じゃないのにたまにすごく素直になるとことか、すごくかわいい。あと、無自覚なの?すげえかわいいこと考えるよね。お姫様にしてあげたくなる。だってかわいいんだもん。最初は変わったやつだなーって思って興味本位でノート借りてたんだけど、かわいすぎて、惚れたww」 耳が赤くなっていくあの独特な感じが妙にくっきりと感じられる。 ドキドキドキと騒がしい心臓や血潮の流れがしつこく頭に響く。 浮ついたような熱に浮かされたような気持ちをほっぽって口だけは上滑りにかわいげのないことを口走る。 「なにそれ、かわいいとか。お姫様とか」 全然そんなキャラでも顔でもないじゃんってぼそぼそと呟く。 無表情のブスにかわいいとか、本当に何を見てるんだか。 「かわいいよ、そういうとこも」 一呼吸置いて渋谷がささやく。 「愛してるよ」 なにそれ。 ねえ素直じゃないほうが好きなの? ずっと素直になっちゃったら飽きる? 今、素直になってもいい? 僕も愛してるって言ってもいい? ねえ。 結局何もいえずにその先を待つ。 天使が舞い降りたようなふっと現れた沈黙。 ちょっと不安になる沈黙。 黙っていられなくて、やっぱりと思い直し口を開いた。 「僕も、好き」 真っ赤になった不細工な顔を見られずにすんでよかったと思いながら電話じゃなかったら今の渋谷の顔を見られたのかなと矛盾したことを考える。 「顔、見たかったから電話じゃなくすりゃ良かった」 渋谷がそう言ったのが電波越しに聞こえてきて同じだ、とドキドキする。 好きだなぁ。 「あとね、顔は関係ないよ、そんなものだけが中野じゃないんだから。もっと大事なものがいっぱいあるって俺は思う」 イケメンだから言えるんだよなーと思いつつ嬉しくなるのは止められない。 「あと、中野の顔、俺結構好きだよ、かわいいじゃん」 いや嘘付け!! 思わず突っ込む。 なわけあるか、雑誌に載るような顔でも、SNSで拡散されるような顔でもない。 「あー、ねえ、そうだ、中野は俺のどこが好き?」
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