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桃子ちゃんは、僕とつないでいた手をぱっと離して言った。
「気持ち悪い」
凍った気がした。
パキパキと音を立てて、凍り付いた。
僕の心が。
桃子ちゃんは冷たい目で僕らを見ていた。
僕は渋谷を見た。
縋りたくて。
渋谷は、これまで見たことがないほどショックを受けた顔をしていた。
予想だにしていなかったのだろうか。
渋谷が口を開いた。
「え?」
まるで、そういう可能性さえ考えていなかったかのような声だった。
ゲイが、同性愛者が、嫌われ拒絶される可能性なんてないとさえ思っていたようだった。
なにも、考えたことがなかったのだろうか。
何も考えずに、永遠の愛を誓っていたのだろうか。
予想される逆風さえ、考えたことがなかったのだろうか。
「ちょっと、考えさせて」
渋谷が、そういって僕の手を放し、一人歩いて行った。
桃子ちゃんと僕は、なんとなくその場でその後姿を見送った。
桃子ちゃんのことを恨む気にはなれなかった。
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