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朝が来てしまった。
そんなに後ろ向きには思ってないけど、やっぱり来てしまったなと思った。
でも前よりは幾分かは幸福な気分で、といってもやっぱりそこまで幸せではないけれども、家を出る。
学校にたどり着くまで、電車に乗ったり歩いたりしながら渋谷との思い出を反芻していた。
別に、感傷的な気分に酔いたかっただけで、あまり深い意味はなかった。
どちらかといえば、幸福でさえあった。
四谷たちに、なんか楽しそうだねと言われて少し可笑しかった。
もはや執行猶予直前のような気分になるはずなのに、妙に楽しくて幸福だった。
ハイになってるのかもしれない。
放課後までは、じりじりと時が進むようだった。
あまりに針の進みが遅いものだから、落合に時間を確認してしまったくらいだ。
しかも、今日に限って数学が二時間もある。
自信がなさ過ぎてなぜ教師になったのかよくわからないあの数学教師の授業という名の入眠剤を二時間投与され続ける。
本当になぜ教師になったんだろう。
不向きすぎではないか。
じりじりと這うようにと気が進み、やっとこさ放課後になった祝いの鐘が鳴る。
なんということないチャイムだけど。
渋谷が、本当に久しぶりに僕と目を合わせた。
「桃子とも合流してから話すわ」
「……ん」
そっけなくうなづいた。
変にうれしそうな顔をするのも変だったし、久しぶりに目を合わせたけれど、そこまでの嬉しさはなかった。
ただ、緊張で身が固くなっているのを感じた。
心臓の音を聞く余裕はなかったけれど、きっと騒がしいのだろうと思った。
渋谷と二人でてくてくと歩き、校門の前で桃子ちゃんを待つ。
沈黙がただそこに転がっているのを感じる。
話しづらいし、そういう空気でもないから、黙って二人立ち尽くして待つ。
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