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「あのーえっと」
僕らの時間が僕らだけのものじゃなかったと気づかされたのは、桃子ちゃんの声でだった。
「翔?あのね、これ、私からのテストだったんだよね。縁は切らないし、本当は気持ち悪いとか思ってない。中野さん泣かしたら私が許さないから!!じゃ、お幸せにー」
そう宣言すると桃子ちゃんは真っ赤なほっぺたでたったったと走っていってしまった。
「やべえ、帰りづらい……」
渋谷が、真っ赤になって気まずそうに言った。
「あっははは、ガンバwww」
僕は思わず吹き出して、無責任な応援をした。
まあ、頑張りたまえ笑。
「てか、テストだったんだ?」
「うん」
僕がしれっとして答えると渋谷が豆鉄砲を食らった鳩の顔になった。
うん、かわいい。
文句なしにイケメン過ぎてかわいい。
「何で教えてくれなかったんだよー」
「それじゃ意味ないじゃん、考えて欲しかったから、僕も」
「……確かに」
「しかし桃子ちゃんはいい子だなー」
「浮気すんなよ?」
「ふふ、どうしよっかな」
「いやマジでやめて、俺ら恋人でしょ」
あ、そっか。
まだ僕、渋谷の恋人なんだ。
そう意識した瞬間、溶かした甘いチョコレートが染み入るようにじわーっと胸の辺りが温かくなった。
なんて言い表せばいいんだろう、こういう気持ち。
嬉しいとか幸せとか、そういう言葉じゃない。
安心でもないし、よくわからない。
だから確かに感じたその感情を僕は愛と名づけることにした。
僕は、渋谷を愛している。
そして、僕は渋谷に愛されている。
確かにそう感じた。
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