イチャイチャ日和と誕生日

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放課後のチャイムが鳴るまでの間、僕はそわそわとしたままたまに渋谷を盗み見ながら過ごした。 たまに目が合うと、にこっと笑ってくれる。 それが嬉しくて、ついそちらに目をやってしまう。 四谷にこそっと「頑張ってね」と言われたり、落合にからかわれたりしたけれど、それよりもドキドキが勝ってしまい、曖昧な笑みしかできなかった。 でもいい友を持ったなと思った。 本当に、ありがたい。 いつかお礼でもせねば。 しかし、時というのは誰にでも平等な唯一のものだと思うのだけれど、今回は本当にそれを実感した。 数学教師がまたも自信なさげに渋谷に聞いているのを“渋谷かっこいい”と思いながら眺めているうちに2時間がすぎる。 あっという間に放課後だった。 心臓の速さはじわじわ速くなる。 ああ、楽しみでドキドキで不安で。 この時間が地味に楽しくて。 もどかしくて。 はやく、はやく放課後よ来い。 チャイムが鳴った。 同時に心臓も鳴ったかもしれない。 思わずビクリとする。 渋谷がそんな僕を見つけてにやっと笑った。 「なーかの!帰ろーぜってうわっちょ、おい」 女の子に飛びつかれて渋谷がよろめいた。 「渋谷くん♡誕生日おめでとー♡デートしよ!」 いや誰だよ。 少なくともうちのクラスじゃない。 いやに積極的だな。 顔は、結構可愛い方かもしれない。 チクチクする胸とざわざわする感情を抱えながらじっとそちらを見る。 渋谷があからさまに嫌そうな顔をする。 「いや、俺先約あるし。てか、付き合う気はないって何度も言ったろ?」 「でもぉ〜♡いいじゃーん、先約って友達でしょ?」 違う、僕は渋谷の恋人だ。 そういえないのがもどかしくて、悔しい。 「……はぁ。例え友達でもお前よりは大事な奴だよ」 「えぇ〜なにそれぇ〜」 ちょっと嬉しい。 でもやばい、めっちゃイライラする。 わかってる。 この女は、多少アピールが激しくてしつこいだけだって。 でも、嫉妬するし嫌な気持ちになる。 渋谷に公然と腕を絡め、至近距離から見上げる女に醜い嫉妬をした。 できることなら、僕だってそうしたい。 「いや、いい加減どけよ」 渋谷が不快そうに眉をひそめて腕を振り払う。 「きゃっ」 女がよろけて、渋谷にしがみつく。 ああ、胸糞悪い。 そこで、渋谷に援軍が入った。 「はいはいはーい、ストップねー。ね、阿佐ヶ谷さん、代わりに僕とデートしない??」 「は?やだ、両国きもーい」 そう言いつつひっぺがした両国に阿佐ヶ谷が引きずられていく。 「阿佐ヶ谷さん、パフェ行こ、パフェ」 「奢るならいいよ、一番高いやつね」 「っしゃ!いいよ奢る奢る」 なんだったんだ今の……? もはや唖然としてしまう。 ていうかやるならもっと早く回収してくれ。 「中野!ごめん、やだったでしょ?」 「……まぁ」 そりゃ、嫌なわけないじゃないか。 いつの間にか来ていた渋谷に返事をする。 「ほんとごめん、阿佐ヶ谷の奴いい加減両国とくっつきゃいいのに」 いつも、結局両国に回収されてるんだよ。多分それが目的じゃね? そう渋谷がぼやく。 そ、そうなのか……。 いや、ていうかそれなら僕の渋谷にベタベタすんなよっ! 「そうなんだ」 「そうそう、気分悪くさせてごめんね?」 ポンポンと頭を撫でられ、びっくりして渋谷を見上げると、渋谷は嬉しそうに笑った。 「中野一筋だよ、安心して」 そう耳に囁かれて、否が応でも顔が赤くなる。 こんなの、反則だ。 「あはは、かーわい。じゃ、行こっか」 僕がなにもいえない間に渋谷は歩き出し、慌てて後を追う。 そういえば、まだ教室だった。 ちらりと確認すると、まだ四谷がいた。 これは、絶対明日からかわれる!!
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