イチャイチャ日和と誕生日

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先を歩いていた渋谷が急に振り返った。 「なに?」 「いや、どこ行くか言ってなかったな、と思って」 あ、確かに聞いていない。 ていうか、そうか、衝動的なキスじゃなくて、予告されたキスだから場所、選べるのか。 考えててくれてたことに胸が高鳴る。 「うーん、迷ったんだけど、うち来ねえ?」 「は?!」 うちって何!? 渋谷のご自宅ってことでよろしいんでしょうか!? え、親御さんとかいないの!? え、え!? 心構えとか!してない!! 「あー嫌?」 「いや、びっくりしただけ!!」 思わず食い気味に答える。 行きたくないわけじゃないから、余計に困るんだっての。 むしろ行きたいよ、どんなところに住んでるか気になるし。 「ははは、それならいいや。行こ」 「え、親、とかいないの?」 「あれ、言ってない?」 「言ってません」 「共働きだしいないよ?」 「桃子ちゃんは?」 「上野と上野デート」 「なんじゃそりゃw」 思わず吹き出す。 ていうか、それ、桃子ちゃんから聞いてないぞ? 「あーなんか上野が見たい展覧会あるらしくて、興味ないけど制服デートするって言ってた」 「あれ、でも上野来てないよね?」 「桃子が制服着てなかったら行かないって駄々こねて制服は着るけど学校には行かないらしい」 はぁ、そうですか……。 もはや呆れて物も言えない。 ……制服デートに憧れる気持ちはわかるけど!! と言っても僕らは毎日そうだけどw むしろ私服デートがしたい。 「まあ、そんなよそのことはともかく、俺たちもデートでしょ?」 そうだった。 「おうちデート、しよーぜ」 「ん」 うなづいて、促されるまま改札を通る。 いつもの駅でいつもと違う電車に乗る。 隣に渋谷がいるってだけでただの電車がすごい乗り物にさえ思われる。 電車広告をなんの気も無しに眺める渋谷をそっと見上げる。 あ、やばい。 これすごいデートっぽい。 カーブでぐらりと車体が傾いた瞬間よろけた僕を渋谷が支えてくれる。 王子様かよ。 「大丈夫?」 「ん、平気」 支えてくれた時に添えられた渋谷の手が未だ離れず腰にある。 そこから熱がじわじわと伝わってくる感じがして心臓が早く打つ。 「このままでもいい?」 「……ん」 ぜひそうしてくれ。 その言葉は口から出ては来なかったけれど、伝わったみたいだった。 次の瞬間、大きく電車が揺れた。 こちらを向いていた渋谷の顔が、僕に近付き。 二人の唇が合わさった柔らかい感触がした。
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