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びっくりしてお互い体を離す。
それで気が付いた、と言うか、やっと実感した。
今、キスした?
渋谷と。
呆気なくファーストキスが吹き飛んだことに驚く。
ええ、そんなことってあるか!?
事故じゃん、事故。
まぁ、相手は渋谷だからいいけど……。
うーん。
渋谷も微妙そうな顔で僕を見ていた。
そりゃそうだ。
二人でなんとも言えない気分のまま電車に揺られ、やがて渋谷に促されるままに駅に降り立ち、改札を出た。
人気が少し減ったところで、渋谷が僕を見て言った。
「あはは、まさか事故るとはwてか中野、唇柔らかいね♡」
「それな、予想外」
人って驚くと案外饒舌になったりするよね。
思わず照れる暇もなく返事をする。
「ふふ、でもリベンジしような」
渋谷が綺麗な顔でにっこりと囁いた。
思わず見入ってしまって、まじまじと互いに見つめ合う結果となった。
照れたように渋谷が頬を染める。
「うん」
僕も照れくさくなって、目をそらしながら返す。
「あ、ここ」
「?」
「ここが我が家な」
は?
指さされた建物は大きくて、高かった。
えっと、これって。
「めっちゃ高そう」
「正直だなww多分高いんじゃね?」
「マジか、金持ちじゃん」
渋谷区で、高層マンション??
お高〜い!という合いの手が脳内で入る。
「まーでも、最上階とかではないし、俺の金で住んでるわけじゃないし」
いやいやそれでもすごいでしょうよ。
渋谷はそう言いつつこれまた高級感漂うエントランスを鍵を開けて通る。
エレベーターにエスコートされ、チーンと止まった先は、15階。
二階建ての我が家に住むものとしてはもはや雲の上……てそこまでではないけれど、憧れの高さ。
ただでさえ、家族の方と顔を合わせるわけじゃなくても緊張するのに余計に緊張が煽られる。
「何、緊張してんの?大丈夫大丈夫」
渋谷がもはや神々しいまでの微笑みを浮かべている。
何が大丈夫なんだかはわからないけれど、なぜかちょっと安心した。
「ただいまー」
あ、誰もいなくても家帰ると挨拶するんだ。
「っふ」
思わず吹き出してしまう。
ちょっと微笑ましい。
「あー笑ったな!」
「いや、いい子だなってwww」
緊張してたから、余計に一度笑い出すと止まらない。
「そんなガキじゃないよ俺ww」
その言い方がガキっぽくてさらに笑いを誘う。
「言い方っあははははは」
「もーw」
あー楽しい。
ひとしきり二人で爆笑すると、渋谷がふっと真面目な顔になって言った。
「どう、落ち着いた?」
……もしかして、気を使ってくれてたんだろうか。
「……うん」
「キス、してもいい?」
言わないでよ、意識、するから。
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