イチャイチャ日和と誕生日

13/17
前へ
/283ページ
次へ
幸せな時間というのは、長続きしないのがお約束。 知ってるつもりでも、毎度味わうたびに翻弄される。 渋谷と玄関で抱き合ったまま、じっとしている僕らの耳に、届いた音。 ガチャッ 「ただいま〜って、えぇ!?なぁにやってんのー?」 綺麗な女性が、玄関から顔をのぞかせていた。 思い切り飛び上がった僕は、頭を激しく渋谷にぶつけた。 渋谷のイテッという小さな声が聞こえるが、僕はそれどころじゃなかった。 消えなきゃ。 隠れなきゃ。 どこに行けば。 見つからない? 怒られない? やばい。 どうすれば。 僕はパニックに陥った。 当たり前だ、親御さんが帰ってくるなんて聞いてない。 渋谷は渋谷でびっくりしているみたいだった。 とっさに、僕を背に回す。 ああ、そうか。 隠れたいと願ったのも僕なのに、隠されるとちょっと傷つく。 身勝手な思いだけど。でもやっぱりちょっと悲しい。 とはいえ、これ幸いと僕は渋谷の背に隠れた。 案外、広かった背を眺めると少し安心した。 ちなみに、この間、およそ10秒ほどである。 無言のまま、事は行われた。 その無音を打ち破ったのは、渋谷のお母さんだった。
/283ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1539人が本棚に入れています
本棚に追加