イチャイチャ日和と誕生日

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さらさらと頭を往復する柔らかな感触。 ぼんやりとした頭で起きるべきかと逡巡し、うっすらと目を開けた。 ……渋谷? じゃあ、夢かぁ。 だったら、見つめていても、いいだろう。 そのくらいは楽しんでもいいだろう、夢なんだから。 渋谷の手が僕の髪をさらさらと梳かしてゆくのを味わう。 さらさら、さらさら……。 見ているこっちがとろけそうなくらい甘い笑みで髪を撫でる渋谷を眺める。 綺麗。好き。 溶けてしまってふわふわしているせいで、しっかりとした思考が築けない。 「ん…きもちぃ、もっと……」 思わず声が漏れる。 それを聞いて渋谷が目を見開く。 え? 待って。 今、ある可能性に気がついた。 ……夢じゃ、ない? だんだんと冴えてきた思考がある答えをはじき出す。 ここ、僕の部屋じゃない。 ……そういえば、渋谷の家に、お邪魔してたんだっけ。 「うわぁ!」 気がついた途端叫んだ。 やばい、ここ渋谷の部屋だ。 なんで寝たんだ!? よりによって!? そんな慌てた僕を見て渋谷が吹き出した。 「あははははは、目が覚めた?」 「っ覚めた!マジでごめん、寝てた!」 「知ってたw流石に寝込みは襲わないから大丈夫www」 寝込みってw 流石にそれはないでしょ。 ……もし本気でそう思ってくれてるなら嬉しいけど。 「あーでも可愛かったのになー。もっと長くふわふわしててよかったのに」 「なに、起きてる僕は嫌なの?」 じろりと不機嫌に睨むと、渋谷が余計に笑う。 もう、何だよ。 「あはは、そうは言ってない。でも別の可愛さじゃん」 「……そもそも可愛くはない」 ほら、嬉しいくせに可愛げのないことばっかり。 「可愛いよ、そういうところも」 どういうところだよ、それ。 「まあいいや、門限とかある?」 「何で?」 「実は、かれこれ1時間ほど経ってます」 「はっ?」 慌てて時刻を確認するともう5時半を回っていて、驚く。 「え、嘘ごめん。デート潰した」 「いやむしろ、寝顔が見られてラッキーだったから、こっちこそありがとう??」 渋谷がそんなことを幸せそうにいうものだから、ちょっと、いや大分照れる。 需要も、面白みも、美しさもないただの男の寝顔で、こんなにも、幸せそうな顔をするんだから。 そんな風に、思ってもらえることが、とても幸せだと思う。 「でも、誕生日デートだったのに」 それでも素直に喜びを表現できなくて、食い下がってしまう。 「いいよ、予想外に母さんとも会うし、疲れたんでしょ」 そう言われるとそうかもしれないけれど、でも本当は、渋谷の匂いが妙に落ち着くから、気がついたら寝ちゃったんだよね。 ……言わないけど。 「うん、まぁ。あ、あと時間は平気」 「今更?w」 「忘れてたから!」 「そっかww」 渋谷が吹き出して、僕もつられた。 しばらく、二人でずっと笑い転げてた。 後半は何が可笑しかったのかわからなくなるくらい笑い続けた。 なんか、幸せだなぁと思った。
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