ハッピーエンドの定義(最終話)*

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いつも通りの下校デート。 今日は、爆弾投下の日です。 ……生きるか死ぬか。 「ね、今日どっか寄らない?」 「ん?いいよ?」 珍しく誘った僕に不思議そうな顔をしながらも快くうなづいてくれる。 「どこ行くの?」 「決めてなかったわ。どこ行きたい?」 「おいおい笑」 突っ込みどころ満載な会話をしながら適当に歩く。 「あ、そこの公園、どう?」 「公園でいいのかよっ」 「え?うん」 「なんだ、洒落たとことか行きたいのかと思った……」 渋谷が何か言った気がしたけれど、聞き返したらなんでもないよと言われたので、なんでもないらしい。 ふうん。 ベンチに腰掛けて、そっと擦り寄る。 人気の全くない公園で、猫の気分を味わう。 猫だったら、マジでずっと一緒に居られるのにな。 「スリスリするの可愛いね?」 「なわけ」 「えー可愛いのに」 「僕じゃなきゃ、な」 「中野だから可愛いの」 何それ。 まるで僕だけ特別、みたいじゃないか。 「かーわい」 チュッと軽くキスされる。 「ちょ」 「大丈夫、人いないし」 「ん」 そう言いつつ深くなっていくキスに目を瞑り浸る。 テクニックよりも愛を感じるキス。 ……は、しまった。 僕は、お誘いしなきゃならないんだった。 つい、気持ちよくて忘れていた。 キスをやめて、渋谷の顔をじっと見つめる。 目は、逸らさない。 「ねえ、渋谷って、……」 ……僕とセックスしたいとか思う? 途中まで言いかけて、最後まで言えなくて、やめる。 「何?」 怪訝そうに渋谷が僕を見る。 「あー、なんでもない」 「そ?どっか行きたいとかあったら言えよ?行くから」 なんで行きたい場所の話になるんだろう。 まあいいか。 「いや、特にない」 「ふぅん、遠慮はするなよ?あ、そういえば母さんがみっちーに会いたーいってうるさいんだけど、会いたい?笑」 「……どっちでもいいけど」 「あはは、素直に会いたくないって言っていいのに」 会いたくないわけじゃない。 僕らのことを受け入れてくれてるし。 でも、あの人遠慮なく言うから……! この間、今みたいに渋谷に言われて会ったとき(そのとき、渋谷のお父さんにもお会いした)、渋谷が席を外したときに言ってきたのだ。 “もうヤったの?” ストレート過ぎるんだ、あの人。 いい人だし、面白いんだけどなぁ。 おかげでお茶を吹く羽目になった。 流石にまだ、会いたくない。 「そういうわけじゃないけど、毎日会う羽目になりそうだし」 「……確かにな、やめとこ。テキトーにかわすわ」 「ありがと」 しばらく、会わずにすみそうだと少しホッとした。 結構好きだけど、しょっちゅう会ってたら諸々すり減るわ。 「寒いな、三月になってもやっぱり寒いわ」 もう3月の半ばだった。 「それな」 渋谷のモコモコ感は、冬と変わっていない気がする。 僕はコートをやめて、セーターとジャケットのみ。 「でも流石にモコモコじゃない?」 「いや、こんくらいがいい」 「暑そう」 「俺のハートはいつも熱いぜ…っぷ、あははははは」 自分でボケておいてツッコミが入る前に吹き出した。 おい、せめて突っ込ませろ。 「さっむ」 「あっためたげようか、ほれ、ハグしようwww」 「キャーヤメテー」 棒読みで嫌がりそのままされるがままにハグされる。 んー幸せ。 ま、いっか。明日言おうっと。 お誘いは先延ばしした。
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