ハッピーエンドの定義(最終話)*

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下校デート。 渋谷にまた家に誘われた。 「今日は桃子ちゃんがいるかもしれないけれど、それでもいい?」 「いいよ、もちろん」 やった、渋谷の部屋に行ける。 今度は寝ないようにしなきゃ。 あと、お誘い、しなきゃ。 電車に揺られながら、この間のキスを思い出してしまった。 揺れた拍子にバランスを崩したんだっけ。 「このカーブだろ、毎日思い出す」 唐突に渋谷が口にした台詞に、照れる。 言うなよ。 余計に恥ずかしくなるだろ。 「またキスする?」 揺られた拍子に、耳に囁かれた言葉で、耐えきれなくなって顔を覆った。 「かわいいー」 「うるせえ」 「そう言うとこも可愛い」 ……愛されてるな、って思うよ。正直。 ブスだけど、愛されてる。 愛してもらってるって思う。 でも、もう少し欲張っていい? どこまで、受け入れてもらえるか、知りたいんだ。 「ほら、降りるよ」 「うん」 改札を抜け、しれっと手を繋いできて、焦って振りほどく。 まだ、日本はそこまで同性愛に寛容じゃない。 ここは、最寄駅だろ? さすがに、それは。 「えー、寂しいなぁ」 「ごめん」 ちょっと寂しそうな顔で言われる。 そりゃそうだよな。僕が同じ立場でも同じことを思う。 「繋ぐのは嬉しいよ。でも、ここでするのとは別」 「うん、わかってるよ」 「うん、ごめん」 「いつか、普通に手をつないで歩ける世界になればいいね」 「ん」 ……本当に、同性愛が、いや、多様な愛が当たり前になればいいのに。 堅苦しい当たり前に苦しまなくていい世界に、なりますように。
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