ハッピーエンドの定義(最終話)*

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コンコンッ もうダメだと思い、絶望感に苛まれて泣いていた。 そこに、聞こえたノックの音。 渋谷、だ。 渋谷だよね? 僕を追い出すのかな。 そうだよな、そうなるよな。 「中野、ちょっとは、その…落ち着いた?」 落ち着いたら出て行かなきゃ、なんでしょ。 すんっと鼻をすする。 「えっと、痛かった?ほんと、ごめんな……。優しくしてたつもりだったけど……」 ……ごめんは、僕が言うべき台詞だってば。 なんで渋谷が謝るの? 「……き、らいに…なった?」 恐る恐る聞く。 すると、思っていたよりも早く返事が来てほっとする。 「なるわけないじゃん」 「なんでっ」 「むしろなんでなると思うの、エロい事するために付き合ってるわけじゃないし」 それはそうだけど!! でも。 優しすぎて、期待通りすぎて、信じられないような気持ち。 「そりゃ、嫌だったよ、寂しかったし」 ……そう、だよね。 拒絶、したんだから。 「でもね、それはエロい事出来なかったからでも部屋叩き出されたからでもないから。中野が正直に痛いって言ってくれなかったことにだから。言ってよ、辛い思いさせたくないんだからっ」 渋谷が泣きそうな声で言ってくれる。 優しい。 「気づけなかった自分も、憎いよ。ごめんな、中野」 「僕も、ごめん……!!セックス、出来なくて……痛いってもっと早くに言えなくてっ」 渋谷にばっかり謝ってるのがたえらなくて僕も謝る。 「ごめんなさいごめんなさい……」 ひくっと喉がなる。 涙はもうずっと流れっぱなしで、嗚咽だけは必死にこらえてた。 「謝んないで、大丈夫だってば。怒ってないし、大好きだよ」 そのまま好きでいてくれてるのが、余計に嬉しくて辛い。 優しい声が耳に届くと、それだけで余計に泣いてしまう。 「泣かないで」 「むりっ」 「即答かよwどうしたら泣き止んでくれる?」 ほとほと困ってる声で聞いてくるその優しさで余計に、涙が止まらない。 「何でもするからさ」 その台詞に、 「僕の好きなとこ、言って……」 無茶振りをした。 聞きたかった。 安心したかった。 「ふっ……いいよ」 この一言が、僕の心を浮かばせる。
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