予想外に。

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家へ帰ると、翔が先に会社から帰宅していた。 「おかえりー」 「ただいま」 この何気ない一言一言が小さな幸せだ。 「ご飯できてるよ」 「マジで?ありがと助かる」 ……今日は僕の番だったはずだけど、作ってくれたらしい。 実はそれを期待して残業するとメッセージを打ったんだけどね笑。 だって翔の作る飯上手いんだもん。 あと、エプロン姿格好いいし。 気まぐれでエプロンをつけた翔を僕が褒めてから、翔はいつもエプロンをつけて料理するようになった。 眼福眼福。 「ただいまのキスはー?」 手を洗ってキッチンへ行くと翔がにっこりと催促してくる。 もちろんいつも通りかわす。 「やだ」 「ええーご飯作ったよ?」 ……それを言われると、困る。 仕方ない。 本当は、それも、期待してたりは、したんだけどね。 毎度キスするのは嫌だけど、したいじゃん、やっぱ。 憧れるし、翔のことが好きだから。 「目、つぶって」 「わーい」 嬉しそうに渋谷が目を瞑るのを、まだ慣れないなと思いつつ、爪先立ちでちゅっと軽くキスしてやる。 「愛の台詞は?」 「断る」 ……大好きだよ♡なんて言うキャラじゃないんだよ僕は。 「愛してるよ、弘道は?」 チッ作戦を変更しやがったな、こいつ!! しかしここは素直に言わないとあとが厄介だ。 「僕も」 「ふーん、言ってくれないんだ?」 ちょっと寂しそうな顔をする翔を見て、良心は疼くが今はときめいてるところだから無かったことにする。 ……本当に、こいつはどんな顔も格好いい。 愛してるに決まってるじゃん。 でも、言ってやらない。 翔の作ったカレーを食べながら翔の話を聞く。 「それでさ、あ、ごめん話変えていい?」 「どうぞどうぞ」 急に何かを思い出したようで、ハッとした顔を一瞬する。 その表情がどうにもこうにも好きで、見ていて楽しい。 ……俳優になれるんじゃないかとさえたまに思う。モロに顔に出てるだけだけど。 「今思い出したわ。さっき桃子から電話があってさ」 「電話?」 珍しい。桃子ちゃんが電話してくるなんて。 そう返すと翔が目をきらっとさせて言った。 「だろ?驚くなよ?」 「え?うん」 何を言うんだろう。 翔の表情が言うのが楽しみでならないと全力で物語ってくる。 「桃子ね、おめでただって!」 「マジか」 まさかそう来るとは。 去年桃子ちゃんは上野と結婚している。 ちなみに結婚式は上野で盛大にやっていた笑。もちろんとても良い式だった。 「マジマジ」 「後でおめでとうって言わなきゃ」 「だね」 しかし、このタイミングで、妊娠かぁ。 最近、子供が欲しいと思ってずっと考えていた。 この機会に、渋谷に少し聞いてみようと思った。 「渋谷は?子供欲しいとか、思ったことある?」 「えーどうだろ。あるよ」 そこまで言ってから、翔がハッとした顔をして慌てた。 「あ、いや違う!女の子の方がいいとかじゃなくて!!中野と、って!!」 思っていたよりも完璧な答えが返ってきて逆に困る。 これは、もしかしたら。 もしかしたらかもしれない。 「マジ?僕もそう思ったことある」 「え、マジで!?やっぱ持てたら欲しいよなーとはちょっと思うよな」 ちょっとどころじゃなく、僕は欲しいけれど。 ここは、勇気を出して、言うべきだろう。 もしかしたら、何かが変わるかもしれない。 ……思ってたよりも、早く言うことになったなぁ。 「持てるよ。それで、実は僕、渋谷と、子供を育てられたらなって思ってる。どう、かな」 ……渋谷が、驚いた顔をしてスプーンを取り落とす。それが、とてもゆっくりに見えた。 カランという音が、異様に響いて聞こえる。 僕は、静かにじっと翔を見つめた。
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