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保留……?
これは、暗に断られたということでいいんだろうか。
まさか断られるとは思っていなくて、ひんやりとした感情に心が揺れる。
「あ、違う。そうじゃなくて。大事な事だからちゃんと考えたくて……いい?」
翔がそんな僕の様子を見て、付け加えた。
「ほら、僕らにとっても、子供にとっても簡単に今決めていい事じゃないと思うんだよ。弘道は沢山考えてくれたんでしょ、この件。俺は今日初めて聞いたから、まだ混乱してるってのもあるし、考えたい」
どうかな、と微笑まれて、納得が行く。
それだけ真剣に考えてくれてることが、嬉しい。
そうなのだ、これは簡単に考えていいことじゃない。
「今日は色々と衝撃的だったから、明日でいい?色々聞きたいことあるんだけど」
渋谷に問われ、頷く。
「よかった。そしたら桃子におめでとうってとりあえず言わなきゃね。というか、その前に飯食わにゃ」
「確かに」
桃子ちゃんには申し訳ないけど、桃子ちゃんのことは完全に忘れていた。
後でメッセージでも送ってお祝いしよう。
お礼の気持ちも兼ねて。
カレーの残りを二人で食べ終え、仲良く使った食器を洗い、拭いて戸棚にしまっていく。
今日は翔が洗い、僕が拭いてしまう番だ。
ガチャガチャという音と、翔の語る推しの話をぼんやりと聞く。
……今日はほんと、色々あったなぁ。
今日、話してよかった。
真剣に考えてくれて、やめようという結論になったら、それはそれだ。
真剣に考えてくれたことだけで十分嬉しいから。
「ねえ聞いてる?」
「へ?」
「あーまた聞いてないなこのやろー」
「ごめんごめん、なんの話?」
「それでね、今度ゆうこちゃん好きな仲間と集ってくるんだけど、何着てけばいいかな!?」
知らねぇ!女子かよ!!
翔が着りゃなんでも格好いいよ!
ちなみにゆうこちゃんとは翔の推しである。まる10年以上愛してるんだから、なかなかのオタクだと思う。
一途なことで。
そういえば僕と渋谷も付き合って10年である。
……翔が一途なやつで、よかった。
「知らん」
「え、冷たくね?」
「冷たくない。あ、」
はたと思いついて、翔の顔を見る。
「なに?」
「わざとダサいの着てってよ」
「え、なんで?」
「……惚れられたら困るから」
そう言うと、翔は真っ赤になった。
本当に、こいつはすぐ顔に出る。
そこがいいんだけど。
「……それは、ないと、思うけど、嬉しいからそうする……」
「……そうしてください…」
思わず敬語になってしまう。
僕だって顔にはあまり出ないが、ドキドキしてるのだ。
「弘道すき……」
「ハイハイ」
「返事は?」
「ハイ」
「っぶは、ちげーわ、僕も、でしょ?笑」
渋谷が僕のボケを聞いて吹き出しながら突っ込む。
ハイは1回。
よく言われる話じゃん。
そう思いながら僕も吹き出す。
二人でたわいもないことに笑って、桃子ちゃんにおめでとうを言って、一日はあっという間に終わった。
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