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ひとつのベッドに2人で寝転ぶ。
「聞きたいことが幾つかあるんだけど」
「うん」
翔が口を開く。
何かを聞かれるのは言われてたことなのですんなりと頷く。
「なんで弘通は子供欲しいなって思ったの?」
予想していた質問。
「えっと、昨日も言ったけど、家族が欲しくて。あと、翔と子供が育てたいなって、欲しいなって思った。あまり、大した理由じゃないかもしれないけど」
「俺もそんな感じだからそんなもんじゃね?」
若干不安だったけれど翔がにこっと肯定してくれるので、少し嬉しくなる。
「あと……」
「あと?」
よしよしと頭を撫でられ始める。
落ち着く。
このままだと寝る。
それはさすがにまずい。
進歩してないことになる。
まあ、実際あまり変わらないのだが。
眠気と安心感につられないよう口を開く。
「ほら昔、どこぞの政治家が言ったじゃん。LGBTは非生産的だって」
「?……あーそんなこともあったっけね」
そんな認識なのか、と思う。
それを聞いて、僕はかなりショックだったんだけど。
「……それ聞いて、悔しくて。そんなことないって思ったし、そもそも生産的かどうかって人に使っていい言葉だとは思えない。」
「あーたしかに?」
もう、何年も前に終わった話だってのは分かってる。
でも、僕の心に突き刺さって、忘れられない言葉。
僕に直接言った訳でもないんだけどね。
「子供を産めないから非生産的だって言ってたでしょ、確か。でも産んだって育てられない人もいる。そういう家庭で育てない子を、育てられたら、少しは、」
言葉に詰まってしまった。
あまりにもエゴでしかない言葉で。
それを翔がフォローしてくれた。
「そうすれば、少しは貢献できるって思ったんだろ?価値が、作れるって言うかさ。言いたかないけど、……生産性がある人になれるって思ったんだろ?」
的確すぎて、しばしフリーズしてしまう。
「……あ、うん。そういうこと、かな。……最低だね」
僕が自己嫌悪すると、翔がそんなことない、と言ってまた優しく頭を撫でた。
……その手に、思わず甘える。
「……なぁ、もし里親になったらちゃんと子供を愛する気があるんだろ?育てたいって、幸せにしたいって思うんだろ?」
そう問われて、迷わず頷く。
「勿論。だって、一人でも多くの人に幸せに生きて欲しいじゃん。うちに来て絶対に幸せになるかって言われたら違うと思う。けど、一緒に幸せを追いかけてやりたいなって思う。家族ってものを、たとえ血が繋がっていなくても、あの不思議な繋がりを作れないかなって思ってる」
これも本心だった。
家族ってなんだろう、と何度も自問したりもした。翔と2人だけじゃダメなのか、とも。
それでも、子供が欲しいと思った。
子供がいることが幸せの定番だとは思わない。育児日記や育児書なんかをちょっと齧ったりしてみて思い知っている。子供は可愛いだけじゃないってことは。
それでも、欲しいと思った。
愛の証とか、そういうのじゃなくて、そうだな。
生きた証が欲しかったのかもしれない。
僕らが生きた証が。
人間の幸せの象徴は「結婚」や「子供」では無い。
でも、僕らの幸せの象徴が、お互いだったり、育てた子供だったらいいなと思っている。
翔が、僕を見てにこーっと笑った。
「弘道、里親申請しよっか」
僕は、笑おうとして、嬉し涙でかき消されて、ぐちゃぐちゃの顔で翔に飛びついた。
「ありがとう……!!」
愛してる、と言ったのはどちらからだろうか。ぎゅうぎゅうに抱き合って、僕に釣られた翔と一緒に僕らは2人で泣いて笑った。
幸せな日々を、僕らはこれからもつくっていく。
fin.
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