おまけ・渋谷は下の名前で呼ばれたい

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「なーかの!何してんの」 僕が英語の予習をしていると、渋谷に聞かれた。 見ればわかるだろう。 「英語の予習。渋谷はやらないの?」 「後で写させて」 渋谷がしれっと言う。 毎度のことだけど、いい加減自分でやってくれ。 「たまには自分でやるとか、どう?」 ……同じ大学、行きたいから。 とかはさすがに言わないけど。 でも、英語ができて損はしないから。 行きたいところに行って欲しいし。 大学は、一緒なら嬉しいけど、学びたいことを学べるところにお互い行くべきだなって思う。 だからさすがにそれは言わない。 「えーー。あ、」 渋っていた渋谷がはたと思いついた顔で僕を見た。 そのキラキラスマイルを見て嫌な予感を覚える。 「……なに」 「ねぇ中野、下の名前で呼んで?そしたらやる」 ……ええ? 僕にそれをやるメリットはあまりないんだけど……。 それと、恥ずかしいから呼べない。 「ねぇ、呼んでよ」 沈黙を決め込んでいると渋谷がせっついてくる。 「……やだ」 「なんで、嫌いなの?」 「好き」 素直にそう返すと少し赤い頬でぱああっと嬉しそうな笑みを浮かべる。 そのキラキラに負けそうになるが、意地でも呼ばない。 恥ずかしい、から。 まだ呼べない。 それに、渋谷は呼んでくれてないじゃん。 だから呼ばない。 「じゃあなんで!!」 「……恥ずかしい」 そう返すと渋谷の頬が段々とより赤くなってくる。 「可愛い……」 「え?なんか言った?」 厄介な英文を訳していたところだったので何か言っていたようだけど、聞きそびれてしまった。 「……なんでもない。ね、マジで呼んでくれないの?」 寂しいなーと僕の背にひっつきながら渋谷が言う。 いくら渋谷の部屋だからってベタベタしすぎだ。 あと、耳元で囁くな!! 吐息が耳にかかって、集中できなくなる。 というか、もう出来てない。 心臓の鼓動は異様にはやくなってて、英文を見ても見えない。 渋谷だけしか、感じないのだ。
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