おまけ・渋谷は下の名前で呼ばれたい

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「耳、まじでやめて……」 思わず音を上げると渋谷がさらに僕の耳に息を吹き込んできた。 そして囁く。 ……マジでやめろ。 ときめきで死んでしまう! 「名前、呼んで?弘通」 呼ばれた瞬間、頭がかっと熱くなる感じがした。名前で、呼ばれた。 2回目だった。 覚えてるよ、ちゃんと。 「弘通」 3回目。 「好きだよ、弘通」 4回目。 火照る頬と心臓の鼓動が強く僕の中で主張する。 「言って、弘通」 5回目。 そろそろ降参してしまおうか。 ……だって、本当は。 僕だって呼びたい。 好きだって、言いたいし、下の名前も呼びたい。 恥ずかしくて呼びたくない。 相反する気持ちが僕を迷わせる。 ……ええい。 いい加減に覚悟を決めろ。 男だろ? 「……翔」 可愛い主人公みたいに噛まなかったし、可愛い声なんかじゃなかったけど。 呼べた。 息を飲む音がすぐ耳元でする。 期待通りじゃなかった? 可愛くないよね? 呼べ呼べ言っていたくせに何の反応もない渋谷に戸惑って、振り向いた。
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