おまけ2・渋谷は同棲がしたい

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案内されたマンション。 単なるマンションだぜ? こんなに、ビビるもんか?? はい、息吸ってー吐いてー。 うん、冷静冷静。 いいか、俺は恋人ですって言いに行くわけじゃねぇんだ。 弘通くんの友達の渋谷翔です。 そう、俺は弘通の友達、友達……。 ……さびしくないわけねーじゃん。 でもな、そんなことでわがまま言える話じゃねーもん、これ。 あとで、ハグしよ。 友達の距離感、を意識する。 こんなに近くにはいないよな。 そっと離れる。 うん、そうそう、こんくらい。 拳を握りしめたところで、軽く息を吸い込んだ弘通がドアを開けた。 大丈夫。 何も起きないよ。 ニコッと笑ってやってから、声を出す。 明るく、好青年に。 「…お邪魔します!こんにちはー」 パタパタと小走りのスリッパの音がする。 「いらっしゃい」 ニコニコと微笑むおばさんは、下手したら道とかですれ違ってる気さえする。 要は、普通な人。 優しそうにニコニコしながら、話しかけてくる。 「まぁまぁ、座って座って。お父さん、呼んでくるわね」 「ありがとうございます!」 ニコッとお辞儀してみせる。 こういうときは、声にも出した方が好印象。 勧められたソファに腰掛けて、弘通のお父さんの登場を待つ。 少し離れて座る弘通に、微笑んでみせる。 大丈夫。 何も心配してるようなことは起きないよ。 「ああ、ごめん。忙しいだろうに、待たせたね」 お父さんが登場した。 ……これまた、どこかですれ違ってそう笑。 中年太りが気になるのか、単なるクセなのか張り出した腹を撫でながらのご登場。 「いえいえ、こちらこそお時間取らせてしまって、すみません。あと、ありがとうございます!!」 俺のセリフを聞いておじさんが俺の目をじっと見つめる。 目は、逸らさない。 「自己紹介、してくれるかな?…私は、弘通の父の浩一(ひろかず)です」 きた。 「弘通くんの友人の渋谷翔です」 おじさんは俺をじっと見たまま、呟いた。 「ふーん」
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