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『ごめん、明日のデート、行けない』 明日のデートにわくわくと準備をしていた最中だった。 スマホが翔からのメッセージを表示する。 僕は驚いて息を飲んだ。 なんで? 嫌になった? わけがわからない。 昨日は、楽しみだねとか言ってたじゃん。 夏休みの、受験勉強を兼ねたデート。 心臓をぎゅっと掴まれたみたいだ。 なんで。 どうして。 痛くて、苦しい。 でも、ただ悲嘆にくれてるだけじゃダメだよな。 なにか、あったのかもしれないし。 期待を込めて、メッセージを打つ。 『何かあったの?』 メッセージを既読にしてから、少し時間が経ってしまってたけど、まあいいや。 すぐに見たのか、あっという間に既読がついた。 『熱』 たった一言だった。 熱? ……熱!?!! 早とちりだったんだ、とすこしほっとする。 そうだよな、翔がそんな不義理なこと、するわけないもんな。 疑ってごめんと内心そっと手を合わせる。 『大丈夫?!』 なかなか既読のつかない画面を眺める。 寝たのかな。 辛くはないんだろうか。 いや、熱なんだし辛いんだろうな。 見舞いに、行ってもいいかな。 流石にそれは迷惑? でも僕、恋人だもんな。 うーん、どうなんだろう……。 はたと思いついて桃子ちゃんとのトーク画面を開き字を打ち込み始めた。 『翔の具合、どんな感じなの?』 ぱっと既読がつき、返事が返ってくる。 あの兄妹、ほんと早いよな。 妙なところに感心しながら送られてきたメッセージを読む。 『えっ、翔がどうかした?私昨日から友達の家でお泊まり会なんだけど』 続けてもう1つ。 『あと、うちの両親、夫婦水入らずで旅行に行くって言ってた……』 なんてこったい!! まじまじと画面に表示されている字を見つめた。 『え、マジで?じゃあお見舞いとか行ってもいいかな』 『いいんじゃない?多分喜ぶでしょ、鍵なら開けるよ?』 『ええ、ほんと?じゃあお願いしてもいい?』 聞いてみたら案外あっさりと了承されてドキドキする。 上手く、看病とかできるかな。 お粥の作り方は検索して朝に練習してからにしよ。 『うん、明日行く感じ?今日?』 『明日にしとく。それにそっち、今楽しい盛りでしょ?』 『うん、ありがとっ!じゃあ心配だろうし、早めにそっち行くね!事情話したら一瞬朝抜けていいって言われたから、8時にうちの前とかどう?』 8時とメモに大きく書いてから、返事を打つ。 桃子ちゃんは本当にいい子だな……。 今度、お礼に何か奢らせてもらおう。 『OK!ほんと助かる、ありがとう〜泣』 『いいのいいの!むしろ翔を看ててくれるなんてこちらこそありがたいと思ってるんだかんね!笑笑』 本当に、いい子だ……。 気を遣われちゃったなと思いつつ、明日の準備を変更する。 服はそのままでいいじゃん? 翔に明日の朝お見舞いに行く旨をメッセージで送ると、既読がつかないのを確認してから、次に取り掛かる。 看病の経験などないから、慌てて検索を色々とかける。 なるほど、冷却シートを買えばいいのか。 一通り検索結果を眺め、満足した。 まだ不安だけど。 やってみてから検索すれば、……なんとかなるよな。 あ、やばい、明日は早く起きなくちゃ。 時計を見上げ、慌ててベッドに飛び込み目を瞑った。 ……少しでも、翔が心地よく寝られていますように。
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