おまけ5 キャンセル

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恐る恐る覗き込むと、翔が倒れていた。 「翔っ!?」 慌てて駆け寄る。 スマホを片手に行き倒れている翔の呼吸を念のため確認する。 よかった、息はしてる。 寝ているようで、少しほっとする。 てか、風邪ひくよそんな格好で寝てたら……あ、もともと引いてたわ、悪化する、が正解か。 「ちょ、起きて」 軽く肩を叩いてみるが、ぴくりともしない。 ……担げるか……?? いや、無理な気が……。 どうやればいいかわかんないし。 うーん、どうしよ。 弱り果てて、スマホを開いた。 ベッドまでは運びたいもんな。 “傷病者 運び方”で検索する。 脇の下に腕を入れて引きずる方法を発見した。 これだ! 容赦のない担ぎ方も発見したけれど、それよりはまだマシそうだ。 よいしょ。 意外と重くて、驚く。 人って重いんだなあ。 腕1つとっても、意思があって動いてるときよりも重く感じる。 あとは、熱があるからだろうか。 熱い。 なんとかずるずるとひきずって翔の部屋のベッドまでのせた。 ふう。 一仕事した気分だけど、まだ始まってもない。 熱を計らなきゃな。 さっき触った感じだと、38度は余裕でありそうだ。 体温計の場所なんかわからないので我が家から持ってきた体温計で熱を測る。 「うわあ」 39度2分。 そりゃ、デートどころじゃないだろうな。 冷却シートを貼り、時計を見るけれど、まだ8時20分。 食事まではまだあるし、勝手に掃除をしたりするのは失礼だろう。 でもさっきキッチンで見かけた水につけっぱなしの食器は洗ってもいいはず。 普段はドキドキしてさわれない翔の髪をそっと撫でてから、洗い物をしようとキッチンへ向かった。 洗い物を終え、翔の勉強机の椅子に腰掛ける。 寝顔をただ眺めた。 それだけで、あっという間に時がすぎてしまう。 顔がいいってのもあるのかもしれないけれど、それよりも。 惚れた人間、だからなんだろうなって思う。 美しいとか、目の保養とか、そういうんじゃないんだな。 なんだろう、見ているだけで、心が和らぐんだ。 でも、苦しそうに時折眉をしかめるのを見るとそんなものは吹き飛んでしまって。 見ている自分まで、なんだか苦しいような、辛い気持ちになるんだ。 僕が代わってあげられないのが辛くて。 見ているだけってのが、どうにも苦しい。 なんで、なんにもできないんだろう。 ただ、拳を握りしめ、じっと横にいる。 そばにいた。 これが意味があるのかはわからなかった。 でも、ほら。 体調を崩すと、心細くなるから。 目が覚めて人がいたら嬉しいかなって。 そんなことを思いながら、ぼんやりと翔を見つめているときだった。 ぴくり、と翔の瞼が震え。 翔が目を開いた。 虚ろに天井を眺めている。 「…翔、」 話しかけるとぐるりと瞳がこちらを向いた。 目が合う。 「ゆ、め……」 それだけ言い残してまた目を瞑り始める翔に慌てて声をかける。 「現実!」 「は?」 かっと目を見開く翔。 思わず吹き出してしまう。 「現実だよ、桃子ちゃんに鍵開けてもらった」 翔の目が覚めたことが嬉しくて、思わず口元が緩んでしまう。 翔は驚いたように僕の顔をただ見つめている。
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